①〈先行的枠組みの線上に位置しながらもこれには納まらないもの〉として、主観と客観の中間としての「気」という概念の特徴付けがなされた。さらに、この「気」が「機」と同義であることから、高度垂直性の次元の発動する瞬間のタイミングつまり「機」の問題が「気」の問題と連動する、ということが理解された。そしてこの「気」が中世日本の精神性と深い係わりを持つことが詳細にわかることにより、そこから、「機」つまり「気」を重視する対話の観念が日本独自の精神性を反映するものであることが理解された。 ②「機」の成分が、心理学での感情研究における実験的手法 ― 「集合法」や「個別配布・個別回収形式による質問紙調査」を用いた確率論的手法や統計学的手法 ― で用いられる「状況選定」や「シナリオ作成」にも寄与すること、このことが確認された。さらに、心理学における感情や身体性の研究において「機」という隠れた有効性が抉り出されることによって、結果として、従来のコミュニケーション論では不可通約的とされた異種分野間対話(たとえば科学と禅)にも、身体情報を基にした新たなる通約性が見いだされた。 ③「死者との対話」や「神との対話」についても、「機」に即したこれまでにない哲学的・文学的-心理学的・実証的な「対話現象学」という立脚点が獲得できた。すぐれて実践的な場面(心理学実験も含む)にすでに織り込まれている見えない成分を、垂直性という空間性格と「機」という時間性格に基づいて取り出し、さらに対話を支える主体の「肉体」の担う働きを明確にするという点で、「コミュニケーション論」や「応用倫理学」に対してもこれまでにない実存的対話研究の地平を開き得た。
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