研究課題/領域番号 |
24520005
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小熊 正久 山形大学, 人文学部, 教授 (30133911)
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研究分担者 |
清塚 邦彦 山形大学, 人文学部, 教授 (40292396)
田口 茂 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50287950)
山田 圭一 千葉大学, 文学部, 准教授 (30535828)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 表象媒体 / 画像 / メディア / 想像 / 虚構 / 現象学 / 分析哲学 |
研究概要 |
代表者小熊は、24年度はフッサールの表象媒体の分析に関する検討を中心に研究を行った。その成果は、学位(博士)取得論文「フッサール現象学における表象媒体の研究―知覚・想像・画像表象―」にまとめられた。知覚においては感覚的所与としての「射映」が、想像においてはファンタスマとしての「射映」が、また、画像表象については絵画や写真といった「画像」が表象媒体としてはたらくが、意識の中でのその働きの有り様と相互連関が考察された。また、とくに「想像作用」については、「フッサールの想像論」という題目で学会発表が行われた。田口は、小熊の研究とも対話をしながら、現代ドイツの動向を参照しつつ、メディア論や美学思想と関連させながら、「表象媒体」の研究を行いつつある。 清塚は、昨年度はおもに言語という「表象媒体」を中心的テーマとした研究を行った。山田も、言語表現の働きの一つである物語という観点から、表象媒体の研究を行った。この二人の研究は「虚構」論という主題としてみることもできる。山田はさらに「知覚論」にも関心をもち、この観点からも「表象」についての研究行っており、清塚は以前からの研究の延長として、「画像」の役割についての研究も進展させている。 昨年度は各自が以上の研究を進めたが、8月と1月の研究会を通して、闊達な意見交換を行うことが出来た。8月には小熊がフッサールに即した研究報告をおこない、のちの論文作成にも参考となる重要な意見交換を行った。1月には、伊集院令子氏を招き、フッサールの画像論を中心とした報告をめぐり意見交換をおこなった。こうした討議は今24年度の研究に活かされ、今後の研究においても大いに参照される可能性をはらむものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小熊は、フッサールの遺稿集(フッサリアーナ)第23巻『想像、像意識、想起』を中心とした、表象媒体についての研究を相当程度押し進め、意識の中で知覚における射映、ファンタスマ、画像がどのような意味で「媒体」なのかを中心に明らかにした。また、とくに「画像表象」については「像客体」と「物体としての像」の関連を考察した。フッサールは1912年頃には、両者の区別だけでなく、物体としての像が「像客体の現出の基体ないし基礎」として、言わばその目的のために働くという理解を示している。これはまさしく、表象媒体としての画像の機能の中心を示したものであり、メルロ=ポンティらの画像研究や一般の諸画像の研究にも役立つ視点である。田口は、こうした観点から、現代ドイツのメディア基礎論、現象学的な美学研究を参照しながら、広い観点から表象媒体の研究を行っている。 また、昨年度、清塚邦彦と山田圭一は「物語」の機能を考察したが、それは言語を媒体とする表象の研究と捉えうるものであり、さらに、その対象を「虚構」という観点から見れば、フッサールの「中立化変様」の概念と響き合うものである。「中立化変様」とは、表象の際の「あたかも~であるかのように」という意識態度のことであり、物語、演劇といった表象はこの「中立化変様」において成り立つということになる。 こうして、研究方法の面では現象学と分析哲学の観点から、また、対象の面では画像と言語という表象媒体という観点からかなりの程度に研究は進展しつつあると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方向を分けて述べる。 1)フッサールの表象媒体の分析の研究はかなり進められたが、研究代表者小熊と田口はさらに、フッサール中期に属するフッサール現象学の研究を通して、さまざまの表象形態とその基盤、とくに時間意識と知覚(感覚的所与)や想像(ファンタスマ)などとの関連を探る。 2)現象学における「中立化変様」と分析哲学などにおける「物語論」や物語の読解における意識の在り方の議論を関連づけて、とくに後者からは虚構的態度に関する具体的な事例と分析を、前者からは虚構に関する意識の在り方の考察の手がかりを得て、虚構についての媒体の位置づけを考察したい。これは、各自の考察を進める際に重要な視角を提供することにもなろう。 3)山田が関心をもっている分析哲学における現代の知覚論についての知見を得るための講師の目処がたったので、講師を招いて研究会をおこない、当該知覚論の構図の把握と現象学的分析との架橋を行いたい(7月に予定している)。 以上のように、個人研究を進めるとともに研究会内部での、あるいは、講師を交えての対話をも重視しながら「表象媒体」の研究を進めていく予定である。 最終年度(来年度)にはまとめの意味で書籍ないし研究報告書の刊行を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度、各自の研究のための文献資料はかなり収集されたが、さらに最新の書籍や論文を参照するための研究費が必要となる。 研究動向の把握や研究課題に関連する研究発表や意見交換のため、学会などへの参加が必要となる。各自2回程度の学会出席を予定している。 代表者と分担者による研究会、講師を招いての研究会ないし研究会ないしシンポジウム開催のため、開催のための経費、講師やコメンテイターへの旅費と謝金が必要となる。計3回程度を予定している。 なお、代表者、分担者の勤務地が、山形、北海道、千葉と離れているため、研究推進のために相当程度の旅費が必要となる。
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