研究課題/領域番号 |
24520007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
DIETZ Richard 東京大学, 人文社会系研究科, 講師 (10625651)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 曖昧性 / 現象 / 耐性 / 概念 / 概念空間 / 段階性 / 確定した真理 / パラドクス |
研究概要 |
本年度は曖昧性の哲学的問題への新しいアプローチを試みた。一般的に概念の曖昧性は適用の境界線事例の存在という「境界線の非決定」として理解される。この理解に対し、報告者はアプローチは曖昧性を「明らかな耐性」という観点から説明する。「明らかな体性」とは一定の関連するパラメータにおいて十分に類似する適用事例への使用に関しては差異が生じない。報告者は、この「明らかな耐性」を曖昧性の根本的特徴として理解し、「境界線の非決定」を付帯的現象と理解することを許す説明に重点的に取り組んだ。 前年度の研究は二つの下位計画に分類できる。 1.現象的及び知覚的概念の明らかな耐性:この下位計画では(「小さく見える」や「赤く見える」のような)現象的概念及び(「赤」や「丸い」のような)知覚的概念の明らかな耐性の説明を展開した。たとえば、これまでの非古典論理の観点から曖昧性を説明する試みは不十分であり、曖昧性のパラドクスの基礎をなす現象の構造や内容を説明する曖昧性の問題の核心を突いていないという旨の議論を展開した。一方、報告者の説明では、より最近の知覚現象に関する理論が曖昧性と関連した現象の理解への鍵となる。また他の例としては、段階的な曖昧性の概念(特に「と同じように赤い」や「より赤い」というような比較を許す曖昧性の概念)の認知的基礎についての説明を展開した。 2.曖昧性の概念の明らかな耐性一般:この下位計画では先の下位計画の研究結果を曖昧性の概念一般に拡張、発展させた。たとえば、曖昧性を概念として捉える仕方(技術的にいえば、「曖昧である」の概念的役割)に取り組んだ。直近では、ここ三十年間に見出された特定の曖昧性のパラドクスから免れるためには、哲学において一般的な曖昧性の概念的な捉え方は本質的に修正されねばならないことを示すより広域の研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の目標は以下の三つであった。1)曖昧性に関連した現象的・知覚的概念の傾向説に則ったアプローチを提示する。2)上記の見解を支持するため、曖昧性のモデルを形式的・経験的に内容をもつものにする。3)この現象的・知覚的概念に関するアイディアを非現象的・非知覚的概念に適用する。 1)『哲学雑誌』に掲載した論文で曖昧性は境界線の非決定と同一ではなく、耐性の発現と同一だという見解を提示した。この見解の基礎には知覚の弁別性がある。この性格は認識主体の傾向が持つ厳密な術語によってモデル化される。 2)未掲載論文"Modelling Comparative Concepts in Conceptual Spaces"を執筆し、曖昧性の段階的な概念空間モデルを提示した。この論文はLectures Notes of Artificial Intelligenceとしてシュプリンガー社から出版予定される。この論文の原案はConceptual Spaces at Work、科学基礎論学会、LENLS09で発表した。なお、この主題に関して、"Vagueness: A Conceptual Spaces Approach"(共著論文)と"Comparative Concepts"(単著論文)が近々掲載される。 3)『論集』31号に"Vagueness and the Conceptual Role of Definite Truth"を掲載した。ここから組織的な研究にも着手し、新たな曖昧性の一般的説明を得た。すなわち、曖昧性に関連した耐性の発現は認識主体の実践的な興味に基礎を置くことになる。 なお、東京大学の一ノ瀬正樹教授と共に海外から10人の発表者を招き、研究集会vagueness and probabilityを主催した。この際に発表・議論された内容は私が編集する雑誌Syntheseの特別号に寄稿する。
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今後の研究の推進方策 |
中心計画は曖昧性の可能性の検討である。まず、研究集会Probability and Vagueness会議での発表“The possibility of vagueness”を改訂し完成させる。この論文は近年注目を集める曖昧性の哲学におけるパラドクスに新たな解決法を提示する。このパラドクスは通常考えられている曖昧性は不可能だと主張する。この主張に対し、このパラドクスを産み出すのは曖昧性の通常の概念それ自体ではなく、背景にある見解だというのが報告者の解決である。この解決では、曖昧性は境界線事例の発現となる。ここから、パラドクスが解決されないのは、通常の前理論的な曖昧性の概念が違った仕方で理論的に解釈される場合であることを証明した。この発表に対する参加者の反応は建設的で肯定的であった。それゆえ、この論文を磨き上げ、世界の五指に入る雑誌に掲載できるよう時間を割きたい。 補助計画は2つある。第一は、選好と合理的選択に関連する曖昧性の検討である。中心計画では、曖昧性の基盤は、言語使用における選好と合理的選択という事実である。この事実に関連し、言語使用における意思決定理論(特に言語論と経済学)を検討する必要がある。具体的には、曖昧な言語使用を統御している合理的選択の原理に関する研究と、曖昧な言語のゲーム理論的基盤についての研究である。第二は、思考における曖昧性である。中心計画との連関で、思考における曖昧性は存在するか、存在するとすれば本研究のアプローチは思考の曖昧性に拡張できるか、という疑問がわく。この問題は、概念的空間にかんする論文で扱う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、物品費は近年刊行された研究書と、パソコン用ソフトMathematicaの購入に充てる。旅費としてはワルシャワ大学(ポーランド)で開催されるPolish‐Scottish Philosophy Conferenceをはじめとした海外発表13件を予定している。また、本年度末は曖昧性の哲学の専門家を招聘し、ワークショップを開催するために用いる。
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