研究課題/領域番号 |
24520008
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
桑子 敏雄 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (30134422)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 倫理的価値構造 / 正義 / 情報管理 / 意思決定 / 合意形成 |
研究概要 |
本年度は、倫理規範と意思決定、社会規範、規範の理念の三要素からなる<倫理的価値構造のトライアングル>において、それぞれの要素を結ぶ倫理的概念として「正義」を置いた。この「正義」を意思決定と合意形成にかかわる概念とするものとして、理論的・抽象的な概念としての「正義」ではなく、「行為の具体的な場面で実行可能な正義practicable justice at the site of action」の概念を創出した。この概念を理論化するための情報・資料整理を行うとともに、国際会議で発表するための準備を行った。 実行可能な正義の実現のためには、行為の遂行者が与えられている選択肢を認識していることが必要である。しかし、人々の利害が衝突する事例においては、選択肢が秘匿され、あるいは選択肢に関する情報が意思決定者に届かないという事態が生じる。とくに東日本大震災における情報マネジメントに関する多くの事例は、実行可能な正義の観点から問題を含む。原発事故の被害を受けている住民の多くは、健康被害そのものについての不満・不安だけでなく、政府・行政や研究機関等からの情報提供のあり方に対する疑念を抱いているからである。 そこで、本年度は、南相馬市の市民との連携のもとに、被災者がどのような情報を求めているかという点についての分析を行った。そのプロセスで、行為者が選択肢に関する十分な情報を得たうえで行為を選択できるという状況が損なわれている状況を不正義と捉え、この不正義をいかに正義の状態(選択肢に関する情報が十分に得られている状態)へと導くことができるかということについての考察を必要とするという判断に至った。すなわち、実行可能な正義の理念を具体的な意思決定・合意形成の場面でどう具体化するかということ、および、これをサポートする制度設計はどうあるべきかという問題を明らかにする必要があるとの認識を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基本的な方法は、これまで申請者が考案してきた〈倫理的価値構造のトライアングル〉とする。すなわち、①〈内面化された規範とその発現としての意思決定〉、②〈社会的に制度化された規範〉、③〈規範を正当化する倫理理論〉の三要素を頂点とする構造を基礎に、(1)具体的な合意形成プロセスにおいて蓄積された情報管理関係の文書の分析および合意形成関係者からのヒアリングによる意思決定時の倫理的判断の析出、(2)社会的合意形成および倫理的価値を実践的につなげる一般的規範についての研究の2点を中心に行った。 すなわち、①申請者の社会的実践において蓄積された「社会的合意形成における情報管理」の倫理的側面に関係する資料の整理を行った。②東日本大震災にかかわる情報関係の資料(各種報道資料など)を含む、「社会的合意形成における情報管理の倫理的価値」に関する社会基盤整備事業について、資料を収集し、またその内容を分析した。③「社会的合意形成」「情報倫理」「プロジェクト・マネジメント」関係の文献を収集し、分析した。海外の研究者と情報交換し、文献を収集した。④実際に社会基盤整備が行われた島根県、宮崎県、沖縄県に出向いて、調査を行った。以上の各種資料における「情報管理」の倫理的価値に関する基本的な概念の整理を「倫理的価値構造分析」に基づいて行い、「実行可能な正義」の概念を得た。 以上のように、本年度は当初計画をおおむね実行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、平成24年度の研究体制を継続し、得られた知見をもとに、「情報管理」の倫理価値の基本構造の解明およびその理論構築に向けて、枠組みを明確化、厳密化する。そのために、以下の作業を行う。①平成24年度に行った現地調査を継続し、ヒアリング、資料収集を行う。(旅費、謝金)また新たな知見を得るのにふさわしい地域があれば、併せて調査を行う。②出版物、書籍その他資料の収集に当たるとともに、インターネット上でデータを収集し、整理入力する作業を行う。(資料整理謝金)③内外の研究者との交流を行う。(旅費、会議費)④理論構築に向けて基本的な概念を整理し、体系化する作業にとりかかる。⑤研究成果を公刊するための準備にとりかかる。また、研究成果について社会的な提言を行うための場や手続きについても考察をすすめる。(旅費、会議費)⑥研究を総括し、研究成果の公刊に向けて準備を進める。 また最終年度は、平成24年度と平成25年度の研究成果をとりまとめる。①「社会的合意形成における情報管理」の倫理価値構造理論の構築に向けて理論化を行い、研究のとりまとめを行う。②理論化した内容を確かなものにするために、ひきつづき社会的合意形成の当事者へのヒアリングを実施し、資料収集・整理を行う。(旅費、謝金)③研究のとりまとめに必要な出版物、書籍その他資料の収集に当たるとともに、データを収集し、整理入力する作業を行う。(資料整理謝金)④理論化を完成するために、内外の研究者との交流を行い、研究成果に対する批判的検討を依頼する。(旅費、謝金)⑤研究成果の公刊のための準備を行う。また、研究成果を逐次発表する。(旅費、会議費)
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究によって得られた「行為の具体的な場面で実行可能な正義practicable justice at the site of action」の概念、及び研究成果を国際会議で発表するための準備として、論文の和英翻訳・英文校正の費用(約20万円)として使用する。 この作業は当初24年度中に実施する予定であったが、論文の修正に予想より時間がかかったため、25年度の納品となった。
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