本研究の成果は、『名古屋大学哲学論集』において、「空間的位置の指示と「主観化」―認知言語学と現象学の交差するところ」と題した論文として公表した。本論文で行った分析は、まずの認識内容の具体的事例を提示し、英語の例文を使って行った。そして、それぞれの認識内容がどのようにして成立するかという問題に取り組んだ。具体的な方法としては、まず認知言語学者ラネカーが彼独自の用語を使用し、そしてイメージ・スキーマという図でもって提示してくれている「概念化」のプロセスを注意深く検討し、特に「参照点」と「ターゲット」、そして「ランドマーク」と「トラジェクター」という基本的な概念 を使用しての分析を、現象学的な立場から、志向性の働きとして解釈し直した。ラネカーが二次元で組み立てているイメージ・スキーマに対して、「心的な」な、主観性の次元の生成を3次元目の座標軸の生成という考えで、独自に展開してみた。また、現象学で言う「志向性」は、われわれの認知世界の内の「直接的スコープ」という<地平>の内部にあるそれぞれの対象に眼差しを向けるという働きを述べているのであり、その意味では、「認識主観」から出発した知覚作用がターゲットである「認識対象」を認知的に捉えるということを意味しているに過ぎないことを示した。また、本研究でのわれわれの発想は、成立している認識内容の具体的提示は、述語文などの言語表現によって行うというものである。そこで、認知言語学の洞察、それぞれの言語表現はそれぞれに対応する概念化の結果であるという原理を受け入れることにより、言語化された限りでの概念化を扱い、それがどのような認知機構を通じて形成されたかを認知言語学と現象学を使い分析することで得られる洞察が大きいことを示した。
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