研究課題
平成27年度では、前年度に提案した進化論的観点からの専門言語の形成とその分岐に関する研究をさらにおしすすめた。このアプローチにおいては、理論構造というものを一種の自己複製子(replicator)として発展する科学活動の記述が核になる。この「理論構造」という概念は、平成27年度にSpringer社から出版されたNew Frontiers of Artificial Intelligenceのシリーズの著書に収録された査読付き論文「Formal Analysis of Epistemic Modalities and Conditionals based on Logic of Belief Structures」の中で定義された「信念構造」という概念に基づいている。また、ヘルシンキ大学で開催された第15回「論理学・科学方法論・科学哲学国際会議」では、「Extended Agents and Development of Science and Technology」という題の単独の口頭発表を行い、拡張された行為主体が科学技術の発展の中でどのような役割を演じるかを論じ、科学哲学研究において新しいタイプの認識論が必要になることを指摘した。そして第38回国際ウィトゲンシュタイン・シンポジウムで発表した論文「Extended Epistemic Agents and an Acceptable Form of Relativism」は、研究チームを拡張された認識的行為主体として捉え、各専門分野でこれらの研究チームの活動が両立する条件について考察している。紀要論文「母子関係の存在論的分析」においては、認識的行為主体の議論と同様の四次元主義的枠組みに基づいてこの枠組みを母子関係の分析に適用する研究を行った。これらの科学哲学を中心とした研究活動に加え、時間の哲学と人工物の存在論に関するいくつかの研究を行い、口頭発表とポスター発表を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
前年度に引き続き平成27年度も、精力的に論文を発表した(英語単著査読付き論文2本、日本語単著論文1本)。また1本の英語論文は、査読を通過してSpringer社の人工知能関係の著書に収録された。さらに、英語と日本語の研究発表を積極的に展開した(英語単独口頭発表4件、日本語単独口頭発表5件、日本語単独ポスター発表1件)。特に、英語論文や国際会議における英語での発表件数が多く、このことは研究成果を国内のみならず海外にも広く発信することができたことを示している。以下、英語での口頭発表についてより詳しく説明しておく。第15回「論理学・科学方法論・科学哲学国際会議」は科学哲学の国際会議として最大級のものであり、この国際会議での口頭発表は、研究成果発信のみでなく研究上の情報収集の面でも大きな意味を持つ。また第38回国際ウィトゲンシュタイン・シンポジウムでの口頭発表においては、科学論で1980年代に重要な貢献をしたことで広く知られているDavid Bloor教授からも質問を受け、これに明確な形で答える機会を得た。そして、KAISTで開催された「論理学と時間」に関するワークショップでは、特別講演(Special Lecture)の発表者として、ヨーロッパやオーストラリアなどからの招待講演者と研究上の多彩な意見交換を行うことができた。また、国際ワークショップLENLS12は査読がきびしいレベルの高いワークショップであり、そこでの発表が認められてインパクトを与える発表ができたことは、高く評価できる。その他、各種ワークショップでの国内での発表は、その分野での研究代表者(中山)の業績が高く評価されたために提題できたと言ってよい。
平成28年度は、これまでの研究を踏まえて、多元的言語論から科学技術進化論へという発展をさらにすすめる研究を行う。また、平成28年度はこの研究の最終年度でもあるので、これまでの個々の研究成果を統合的にまとめるような活動を目指したい。具体的には、本研究全体をまとめるような著作の出版に向けての準備をしていく予定である。さらに、本研究を形而上学研究や時間経験の研究や社会的活動の哲学的分析とも結びつけて展開したいと考えている。そしてこれらの成果を、国内外の学会や国際会議で発表するとともに、論文の投稿をしていく予定である。以下、具体的に平成28年度前半を中心に研究公表の計画を述べておく。まず、Springer社から出版されるCognitive Neuroscience Robotics Bに収録予定の英語論文「Norms and Games as Integrating Components of Social Organizations」が平成28年度中に公表されることを目指す。また、草稿段階の英語論文「An Evolutionary Theory for Science and Technology」を学術雑誌に投稿する。そして、6月3日から5日にかけて金沢で開催される国際ワークショップEthno-Epistemology Conferenceにおいて、「Cultural Ontology and Cultural Norms」と題した単独の口頭発表を行う。さらに、6月18日から19日にかけて埼玉大学で開催される科学基礎論学会大会でのシンポジウム「法の論理と哲学」において法典の解釈主義的アプローチを形式化する研究発表を行い、他の提題者たちと議論する予定である。これに加え、8月19日から20日にかけてソウル大学で開催されるThe 3rd Conference on Contemporary Philosophy in East Asia (CCPEA 2016) において、指導している大学院生とともに「Truth-maker Maximalism and a Boolean Algebra of States of Affairs」と題した共同発表を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件) 図書 (1件)
大阪大学大学院人間科学研究科紀要
巻: 42 ページ: 291, 307
C. Kanzian, J. Mitterer, and K. Neges (eds.) Realism, Relativsm, Constructivism: Contributions of the 38th International Wittgenstein Symposium
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Proceedings of the Twelfth International Workshop of Logic and Engineering of Natural Language Semantics 12 (LENLS 12)
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