研究課題/領域番号 |
24520018
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
寿 卓三 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30186712)
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研究分担者 |
森 秀樹 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (00274027)
上利 博規 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (20222523)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ホロコースト |
研究概要 |
「生の内なる死death in life」という事象に関するパーソン論および現象学等の文献研究を通して、共生の地平の成立条件を通時的且共時的に考察した。この作業によって、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』において、ドミートリーを通して提起した〈誠実でなければ死ぬことも生きることもできない〉という主張の真実性についてその理論的支柱を解明し、本研究の基礎固めを行うことができた。 生と死の状態との相互排他性、そして死の無意味さを説くエピクロスの立論は、現象学、実存主義、分析哲学を継承する21世紀の哲学的死生学においても依然として乗り越えがたい壁として立ち塞っている。そこで、研究代表者である寿は、統一性をもつ有機体としてのパーソンがこの世界から消え去るという意味での「死」という事象を問題にする基本的枠組みを生化学・分子生物学における「アポトーシス」論、フロイトの「死の欲動」論などを手がかりに考察した。また、理論的考察と平行して、小学校・中学校・高校の学校現場における児童生徒の相互関係の具体相に即して死や苦という否定的な経験が児童・生徒の倫理観や死生観に及ぼす影響の研究を進めている。 研究分担者の上利は、サルトルやレヴィナスによる偶発事や災難としての死の把握について研究を進めている。 研究分担者の森は、寿とドイツに出かけホロコーストという経験がもつ今日的意味を探る機会を持った。この出張では、歴史的建造物が存続するフライブルクと大幅な再開発が進むベルリンとでは相当な隔たりがあるという印象を受けた。 ドイツがその負の遺産を将来の創造にどう活かすのかという問題は、他者の苦難への共苦が分断化を深めつつある時代にあっても、「われわれ」の新たな創造の契機となり、通時的且共時的な共生の地平を切り拓く可能性を宿しうるのではないかという当研究の核心に関わる問題と関連することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「生物学的死biological death」と「パーソンの死」との区別如何を問題にするアングロ-サクソン系哲学における死の考察と実存主義の死の哲学とを架橋し、「生の内なる死death in life」という事象の現象学的考察によって、人-間的共生の地平を切り拓くことを目指している。現在まで、統一性をもつ有機体としてのパーソンがこの世界から消え去るという意味での「死」という事象を問題にする基本的枠組みを生化学・分子生物学における「アポトーシス」論、フロイトの「死の欲動」論などを手がかりに明らかにできた。これによって、まず「生の内なる死death in life」という事象に関するパーソン論および現象学等の文献研究を通して、〈誠実でなければ死ぬことも生きることもできない〉という主張の理論的支柱を解明し、本研究の基礎固めを行うことができた。 さらに、サルトルやレヴィナスによる偶発事や災難としての死の把握について考察することで理論的研究を深化できた。 これらの理論的考察と平行して、ドイツにおけるホロコーストという経験がもつ今日的意味の探究、そして小学校・中学校・高校の学校現場における児童生徒の相互関係の具体相に即して死や苦という否定的な経験が児童・生徒の倫理観や死生観に及ぼす影響の考察を進めている。 これによって、社会の分断を深めつつある時代にあっても、他者の苦難への共苦が新たな「われわれ」の創造の契機となり、通時的且共時的な共生の地平を切り拓く可能性を宿しうるのではないかという当研究の研究課題の探究に一定の深化があったと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を承けて、「生の内なる死death in life」という事象に関するパーソン論および現象学等の文献研究を継続する。この作業を通して「他者なしには私は救われない」という通時的且共時的な共生の地平の成立条件を追究し、本研究の主題探求を深化させる。 研究代表者である寿は、現象学、実存主義、分析哲学を継承する21世紀の哲学的死生学における研究成果と関連づけながら、統一性をもつ有機体としてのパーソンがこの世界から消え去るという意味での「死」という事象の考察をさらに深化させる。 研究分担者の上利は、フランス現代思想における死の問題についてさらに研究を深化させると同時に、フランスでの資料収集や議論について主導的に作業を進める。 研究分担者の森は、フライブルク大学やベルリン大学訪問の成果を整理すると同時に、その成果を承けてドイツ現代思想における死の問題についてさらに研究を深める。 理論研究と平行して、前年度に検討した方針に基づいて小学校・中学校・高校の学校現場の調査研究を具体化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は、寿と森の二人がドイツを出張を行ったが、ホロコーストという経験のドイツでの継承のあり方ということで多くの課題が残った。そこで、今年度は、寿、森、上利の三人でフランスの研究者と交流することで、ヨーロッパにおけるホロコーストという経験の継承ということに関する考察を深化させる必要がある。三人のフランス出張、および国内の研究会などへの出張の旅費に研究費のかなりの部分が当てられることになる。 あと、教育現場の研究協力者への謝金、関連書籍・消耗品の購入に充てる予定である。
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