最終年度(平成26年度)及び過去三年間の主な研究成果は以下の通りである。 当初の研究計画に掲げた三つの目標のうち、【1】「カント以降の普遍主義的な規範理論にとっての判断力の意義の明確化」については、「倫理学における判断力の問題(3)」(2012)で示した「格率あるいは行為原則の物語性」が最も重要な成果である。また、二年目、三年目には、研究代表者の論文(「判断力の自己自律」等)に刺激を受けた若手研究者との意見交換を通じ、カント倫理学及び判断力論の発展史研究を深めることができた。その成果の一部は書評論文(所収:『現代カント研究第13巻』(近刊))の形にまとめた。 【2】「物語論と判断力論の関連の明確化」については、様々な偶然的な所与に対し、時間及び意味の秩序を与え、自己同一性の基盤を形成する機能(その重要性については、普遍主義の賛否を超えて意見の一致が見られる)を持つものとして両者(物語と判断力)をとらえるという結論に達した。この点については、哲学の特殊講義等において研究(ライフヒストリー研究を含む)のまとめを行っている段階である。 【3】「普遍主義的な規範理論の評価の再検討」については、上述の「格率あるいは行為原則の物語性」との関連から、現代の理論としてR.M.ヘアの二層理論(近年、選好功利主義の立場とは独立に評価されている)を検討し、その成果を論文「倫理学における判断力の問題(3)」(2014)として公表した。また、以上のような研究から得られた視点は、研究代表者が続けている道徳教育に対する関与にも反映されている(「哲学・倫理学の研究者は道徳教育にどう関わるか」(近刊))。
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