研究実績の概要 |
月例研究会を下関市立大学、龍谷大学および水産大学校において開催した(4/12, 6/7, 7/12, 9/13, 10/25, 12/20, 2/7, 3/26)。『技術の完成』の訳出作業については、本論部分の訳出をほぼすべて完了した。 研究成果として特筆すべきは、分担者中島の『技術の完成』とエコロジー思想の関連に関する論文(中島2014)である。同論文はユンガーが機械と人間の組織化の表現手段として用いた「歯車」「パイプおよびボイラー」といった形象に着目し、前者の表現する「死んだ時間(die tote Zeit)」と後者の表現する「機械自身も生命を持った生き物のように見えてしまう」様相とを対比する。さらにユンガーによる「所有として富」(経済的財の生産・消費・蓄積)と「存在としての富」(「王侯的なあり方」、自由・余暇)との対比構造に着目し、測定可能かつ反復可能な「死んだ時間」を前者に、事物との相互影響関係において「無限に多くの」様相をもちうる「生きた時間(die Lebenszeit)」を後者に関連づける。ここから「保護に委ねられているものたちの成長」を心がける人間による、「生きた時間」を共有する自然への共感に基づく自然の管理、すなわち(ソローに発するディープ・エコロジーと区別される意味での)「人間中心主義的」エコロジー思想がユンガーに見いだされうるとする。 代表者桐原は、昨年度の「機械論と目的論」をめぐるカントとユンガーの比較検討の成果をふまえつつ、ドイツの「自然倫理」に関する研究に着手した。とくに2000年代初頭におけるディーター・ビルンバッハーとユルゲン・ハーバーマスの着床前診断をめぐる論争から両者の自然観の相違に着目し、その論点の一部を教養科目「哲学」において解説した。関連して、カント実践哲学およびドイツの歴史認識に関する論文を公刊した。
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