本課題最終年度であることを踏まえ、総括をおこなった。これまでの研究からブランシュヴィックの世代におけるスピノザ受容が社会形成におけるスピノザ思想の実践であることが判明したため、本年度は市民社会の形成との関わりに焦点をしぼったスピノザ受容の調査・研究をおこなった。ヴェイユとブランシュヴィックの直接の影響関係は認められなかったが、アランの影響もあって、デカルトの意志の哲学が色濃くみとめられた前期思想が、30年代の労働運動・革命思想・スペイン内戦参加等によって挫折していくなか、占領中の強いられた失職により深い沈潜の時代をへて後期思想の特徴とされるスピノザ的必然の受容へと至る過程が「カイエ」にみとめられた。その成果をヴェイユの『重力と恩寵』校訂翻訳にあたりじゅうぶんに反映させた。 本年度は研究の総括として、当初の予定では代表者によるフランス・シモーヌ・ヴェイユ学会での成果報告をめざしていたが、更なる文献調査が不可欠となったため、分担者による文献調査に変更し、その成果を資料集の形でまとめることができた。資料集においては、ブランシュヴィックら世代のスピノザ受容がいかなる団体にも権威にも依拠しない脱党派主義に存し、陶酔することのない知性に基づくことに着目し、彼らの社会における脱党派的な活動をまとめた。とくに、社会主義や共産主義など社会科学が勃興するなか、政党、教義、主義、宗教に関わりなく、ジョルジュ・デルムを中心とした労働者自身による団体「概念の協同」や民衆大学と哲学者たちとの関わりや、デジャルダンやラニョーらによる真理のための同盟と倫理の問題を取り上げることができたことは、今後のフランスにおけるスピノザ受容史の新たな展開を生み出すと思われる。
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