研究課題/領域番号 |
24520028
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
飯田 隆 日本大学, 文理学部, 教授 (10117327)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 言語哲学 / 日本語意味論 / 国際研究者交流(カナダ、アメリカ合衆国) |
研究概要 |
研究第一年目の本年度においては、過去十年以上にわたる研究代表者による日本語意味論の研究を再検討し、多くの改訂を行い、その成果の一部を英語論文としてまとめた。また、こうした再検討の結果から示唆された新たな研究の方向性について、二度にわたる国際的なワークショップにおいて発表を行った。さらに、日本語意味論から得られる知見が、日本語に対する一般的理解にどのような寄与を行いうるのかについて論じた、日本語の論文も発表した。以下に、その各々について、より詳しく述べる。 (1) 論文“Indirect Passives and Relational Nouns (II)" においては、日本語に特徴的な間接受身の意味論的特性を説明するために、関係名詞(relational noun)というカテゴリーを立て、その特性について詳しい記述を行った。この論文を書くにあたっては、研究協力者ラヨス・ブロンス氏との議論がきわめて有益であった。 (2) 二つの研究発表“From Philosophy to Japanese Semantics (and Back)" および“On Singular Quantification in Japanese"は、いずれも日本語名詞句の意味論にかかわるものであり、前者では、「S+こと」という形の名詞句の一般的取り扱いを、後者では、「どの+N」という形の名詞句を用いた量化についての新しい理論を、それぞれ提案した。後者は、トロント大学のByeong-Uk Yi氏を招いて行った共同研究に負う所が大きい。 (3) 論文「複数論理と日本語意味論」(西日本哲学会編『哲学の挑戦』所収)においては、(1)および(2)における理論的枠組みとして用いた複数論理(plural logic)の、哲学一般および、日本語話者の言語意識への寄与について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本語意味論を具体的に構成することと、日本語意味論がもちうる哲学的含意を明らかにすることという、二つの部分から成る。本年度は、そのどちらに関しても、おおむね計画通りに研究を進めることができた。とりわけ、本年二月にトロント大学のByeong-Uk Yi氏を招聘して、講演ならびにワークショップを開催したことは、研究の進展におおいに役立った。 前者の、日本語意味論の具体的構成という点について言えば、一方では、動詞句の意味論にとってのひとつの要である態(voice)のなかでも重要な受身についての、研究代表者の過去の研究を整備したが、これは、次年度以降の態一般についての研究への基盤となるはずである。また、他方では、日本語名詞句の意味論にとっての中心問題である量化の取り扱いに着手し、一定の成果を収めたことも本年度の研究成果である。 後者の、日本語意味論の哲学的含意の研究という点に関しては、複数論理という分析的道具が、日本語意味論の構成にとって必須の道具であることを示したとともに、複数論理の採用が、アリストテレス以来の述定(predication)についての哲学的理論が唯一 のものではないことを示した。これは予定通りの研究成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
日本語意味論の具体的構成という観点からは、本年度の研究を引き継ぎ、動詞句の意味論および量化の取り扱いの研究をさらにすすめるとともに、以下のような課題に取り組む。(1) 複数論理を、照応現象を扱うことができるような枠組みにまで拡張することを試みる。これは、動的複数論理(dynamic plural logic)の構成となろう。(2) 日本語の基本文類型のひとつである題説文の意味論を、すでに研究が進んでいる総称文(generic sentence)の意味論として展開することを試みる。これによって、日本語の基本文類型のもう一方を形作る事象文の意味論との違いを明確にさせることが可能となろう。 日本語意味論の哲学的含意を明らかにするという観点からは、日本語の意味論が、西洋哲学の移入の際に与えた影響、とりわけ、西洋哲学という新しい学的体系を日本語によって表現する際に与えた影響をはかる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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