本研究の目的は、研究者がこれまで行ってきた、日本語を対象とする形式意味論における成果をもとに、精密であって包括的な意味論的理論を構成するとともに、理論の哲学的基礎、ならびに、理論からの哲学的帰結の吟味を行うことを目指した。これら三つの側面のすべてにおいて、一定の成果が得られたと確信している。 (A) まず、意味論そのものについては、複数論理をメタ言語に採用することが、日本語名詞句の意味論、とりわけ、量化の扱いについて、きわめて有効であることを立証できた。細部にまでわたる具体的な分析としては、項をとる関係名詞の意味論、日本語の量化表現の体系的分析の二つが、本研究の大きな成果である。 (B) 次に、本研究において構成した意味論的理論の哲学的基礎に関しては、二つの方向で研究を行った。ひとつは、複数論理の哲学的基礎に関してのものであり、もうひとつは、言語の存在論および認識論にとって重要な区別であるタイプとトークンについての検討である。後者は、トークン生成子(token generator)という新しい概念の提案と、それをもとにした言語の同一性についての新しい見方の展開という形を取った。 (C) 最後に、日本語の意味論的研究からの帰結として、近代日本における哲学とその媒体である日本語との関係について考察を行い、二つの国際学会において、その成果を発表した。 最終年度においては、一方で、三年間にわたる研究の成果となる、日本語における量化についての包括的な英文モノグラフの準備を行うとともに、日本語における mass/countの区別についての研究を行った。これらの研究は、近いうちに公表される予定である(前者の一部はすでに公表されている。)
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