研究課題/領域番号 |
24520031
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤本 一勇 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70318731)
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キーワード | 時間論 / 空間化 / メディア性 / 情報論的転回 / 差異化=分化 / テクノロジー / 亡霊・怪物・キメラ |
研究概要 |
昨年度に引き続き、デリダの時間論における差延(特にその空間化の問い)を中心に研究を行なった。フッサールの『内的時間意識の現象学』が提示した時間図式を西洋哲学全般の時間論を包括するものと捉え、そのなかにアリストテレス、アウグスティヌス、デカルト、ライプニッツ、カント、ヘーゲル、ベルクソン、ハイデガー、メルロ=ポンティらの時間概念を位置づけて検証し、いずれにせよ痕跡化運動=空間化運動としての時間作用の軽視が見られることを明らかにし、それに対してデリダの差延概念はこの痕跡化=空間化の運動を時間の根本作用として肯定するものであることを解明した。その際にデリダが空間化の構造を「書き込み=記録」システムをモデルに思考しており、20世紀前半から中盤にかけての言語学や記号学の成果を用いつつ、その後の情報科学にもつながる問題意識をもっていることが明らかになったが、その反面、言語や記号的なものへの依拠が強いため、イメージや身体の問題を十分には扱えていないという問題点も浮き彫りになった(もちろんデリダに限らず西洋哲学全般に共通する課題であるが)。またデリダの差延概念は、現前性を痕跡性や記録媒介性(広くは技術性)へと書き換えて拡張していく点で現前の形而上学批判としてはラディカルでありながらも、原理としての現前を痕跡性に置き換えたにとどまる側面をもっており、現前の形而上学と同様のある種の還元主義に傾くきらいがあり、現前の形而上学に代わる(場合によってはそのヴァージョンアップとしての)痕跡の形而上学に陥っているという側面も明らかにすることができた。その点はハイデガーと共通の問題点をデリダも抱えており、差延概念がハイデガー時間論を巧みに脱構築しながらも、やはり根源的痕跡化運動における「分化=差異化」の諸相をしっかりと領域化できていないという問題が明瞭になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西洋哲学の時間論に対するデリダの批判・対決、および差延概念の意義については、フッサールとハイデガーの時間論との関係を通して十分に明らかにできたと考える。現前の形而上学は実は時間の形而上学であり、デリダはそうした時間中心主義に対して、時間が同時に必然的に空間化でもあること、さらにはむしろ空間化こそが時間化を可能にすることを強調する点に特徴があることが判明した。これまでの研究で差延論の諸相のなかの記号論、時間論、空間論といった原理的な部分が解明されたことで本課題の7割程度が達成されたと考える。今後は差延の原理からの「分化」の諸相の解明が課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究ですでに、差延の原理的水準から世界の多様な諸差異の水準への分化の記述にデリダ哲学の弱点があることが示唆されているが、今後はこれを個別具体的に研究していく。まずはこの分化のなかでもデリダがもっとも貢献したと思われる政治思想や倫理学の分野を取り扱う。来たるべきデモクラシーや歓待、赦しの問題において、原理的な差延概念がどのように差異化=分化しているのか、その可能性と問題点を明らかにする。次に性的差異やメディア・テクノロジーにおける差延概念の妥当性を検討し、デリダ哲学の意義と限界を解明する。なお本年はデリダ没後10年にあたり、世界で多くのデリダ関連の学会やシンポジウムが企画されているが、それらに参加したり、また研究推進者自身で大きなデリダ・シンポジウムを日本で開催する予定である(早稲田大学、11月22、23、24日)。
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年は研究対象であるジャック・デリダの没後十年にあたり、研究推進者を中心に早稲田大学で3日間にわたる大きなシンポジウムを開催する(11月22、23、24日)。そのための資金を確保するためと、またパリと上海で行なわれるデリダ・シンポジウムに参加することも確定しており、そのための資金確保のため、次年度に予算を残した。 上述のように早稲田大学でのデリダ・シンポジウムの開催および外国でのシンポジウム参加のための使用が大きい割合を占めることになると予想される。もちろん、必要な文献資料の収集・調査のための費用にも充当する。
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