最終年度はジャック・デリダの「差延」論の総括として、初期から中期にかけて展開された時間論・空間論としての「差延」概念が、晩年の「来たるべき民主主義」や「メシアなきメシア性」といった、デリダの政治思想とどのように関係するかを研究した。「差延」概念は時間と空間の充足状態にたえず亀裂を入れ、新しい開けへと導く力であるという点で、救世主を必要としない未来の開放、その具体的政治制度としての民主主義の根底にある概念であることを明らかにした。その結果、デリダの思想が1980年代に政治化・倫理化したとの浅薄な見方は否定された。しかしながら、「差延」は世界の根本的な解放形式であると同時に必ず歴史の時空のなかで展開される運動でもあり、そのため1980年代に生じたグローバルな政治・経済・軍事・科学における変化に対応すべく、「差延」のモチーフが元々持っていた政治的・倫理的含蓄が顕在化したことを証明した。この点については雑誌『思想』(2014年第12号)に「テクノロジーと来たるべきてテクスト」および『現代思想』(2015年臨時増刊号)に「他者性の分有」を発表し、議論した。 2014年はデリダ没後10年ということもあり、数多くのシンポジウムを企画・参加し、デリダ研究の国際的動向をリサーチするとともに、国際的研究の一翼を担うことにも貢献した。特に2014年11月22-24に早稲田大学で「デリダ没後10年記念シンポジウム」を開催し、国内外の研究者12名を招いて研究講演と討議を行った。また9月27日に上海交通大学におけるInternational Conference: Commemorating the10th anniversary of Jacques Derrida’s deathで発表、さらに2015年3月19日はパリ国際哲学院で「デリダと教育」をめぐるセミナーを行った。
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