研究課題/領域番号 |
24520034
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
金山 万里子 大阪医科大学, 功労教授 (10093189)
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研究分担者 |
金山 弥平 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00192542)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 哲学 / 倫理学 / 西洋古典 / 正義 / 感情 / 宇宙 / ソクラテス / プラトン |
研究概要 |
今年度は、研究代表者は一方では、正義の社会的基盤に関わる実績として、知恵と正義において比類なき人物ソクラテスが、なぜ不敬虔のとがで訴えられることになったのか、またその「罪」とは実際のところ何であったのか、そして刑死を免れる機会はあったのになぜ従容として毒杯を仰いだのかという問題を、訴えの真意をも含めて検討し、その成果を論文にまとめた。 また同時に、ギリシア人の教師と呼ばれたホメロスに関する考察を通して、ギリシア世界全体の倫理観、その方向性を探った。すなわち、死すべきものである人間にとって、真に善き生き方とは何であるかという問題を、『イリアス』に描かれた人間観を神のあり方と比較しながら考察し、その結果を、台湾での招待講演において発表した。 他方、研究分担者は、幸福に焦点を当てて研究した。すなわち、現代の脳神経学者、ダマシオはソーマティック・マーカー仮説に基づき情動制御の不可能性を主張しているが、それに対して古代の哲学者は、それぞれに情動をコントロールしうる可能性を模索している。とくに、彼らが「宇宙論的な正義」とも呼びうる広い枠組みのなかで情動を制御し、幸福を確保しようとした方法は、現代の認知療法、およびマインドフルネスに基づく瞑想実践にも通じるものがある。この問題について得られた知見を、分担者は、招待講演や論文の形で発表した。 またそれと並行して、正義に関する認識の問題を、とくにプラトン想起説との関連において考察した。プラトンは『パイドン』において「等しさ」の概念を用いて、想起説による魂の不死論証を行っているが、この際の「等しさ」は幾何学的な概念であるとともに、宇宙論的な調和、また正義(公正)にも通じる概念であることを示す方向で研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「(3)やや遅れている」と判断したのは、もっぱら予定していた翻訳作業の遅れのゆえである。研究の方面では、ソクラテス、ホメロス、プラトン、幸福論などの領域で達成した成果には大きなものがあった。すなわち、研究代表者は『ゴルギアス』の正義論と関連して、正義の人ソクラテスが不正を受けることになった刑死の問題の研究に深く入っていくことができた。また奴隷制度の問題には24年度は触れることができなかったが、ソクラテスの死とホメロスの人間観の問題探求から得られた知見は、奴隷制度と対比される人間の自由の問題とも関係しており、この研究テーマに関して新たな方向性を示すものでもある。 他方、研究分担者においては、一方では、ガレノスの自然学とも関係して進めていたアリストテレス『生成と消滅について』の翻訳を完成させることができた。さらに幾何学における等しさと宇宙的正義の問題、およびそれらの認識に関わるプラトン想起説の問題、また情動制御、幸福と正義の関わりの問題について、今後の研究進展に役立つよい成果を上げることができた。 ただ上述したように、こうした研究方面での成果が大きい反面、ガレノスの翻訳、およびプラトン『ゴルギアス』と『政治家(ポリティコス)』の翻訳に遅れが出ているのも事実である。これについては25年度に改善を図る。 また海外の研究者との研究交流としては、予定していた英国ケンブリッジや米国バークリーの研究者との研究交流は24年度はできなかったが、その代わりに研究代表者、分担者ともに、この3月、台湾において、それぞれ進めてきた研究の発表を行うことができた。これは今後の発展的国際研究交流につながるものでもある。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要において言及したソクラテスの正義、幾何学的・宇宙論的正義の問題は、25年度も継続して探求する予定である。またガレノスの視点からの正義論考察を助けるため、ガレノスの哲学的著作の翻訳を行い、25年度中の一通りの完成、そして26度中の出版を目指す。その翻訳作業を通して、ガレノスが正義の問題を、とくに感情・情動的側面と宇宙論的側面からどのように捉えたかを調べ、本研究課題遂行に役立てることを意図している。 また研究代表者はプラトン『ゴルギアス』の翻訳を進める。『ゴルギアス』は、社会的正義と宇宙的正義、また幸福の問題集中的に取り扱っており、翻訳を通して得られる成果は大きい。また奴隷制度の問題と関係して、自由の問題にも研究を進めていくことを計画している。 研究分担者は、今年度中に、ソクラテスが毒杯を仰いだのちに発する彼の最後の言葉(『パイドン』)、および恋と善の探求、探求における語りの継続と想起の問題(『饗宴』)について、前者は国内の学会(日本西洋古典学会)、後者は国際学会(国際プラトン学会)で発表する予定である。そうした発表の機会を通して本研究課題を推進していくとともに、また幾何学的正義と宇宙的正義、感情制御の問題も継続して研究する。 代表者、分担者ともに、それぞれ得られた成果を、英国ケンブリッジや米国バークリーなどの研究者との研究交流を通して深めていく。また24年度に開拓した台湾の研究者との研究交流も継続して深めていくことができればと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は旅費を節約できたので、残額141,591円は、平成25年度に使用する旅費に加算する計画である。 したがって、平成25年度総額1,141,591円の内訳は、物品費300,000円、旅費791,591円、その他50,000円の予定である。
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