研究課題/領域番号 |
24520036
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
轟 孝夫 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 教授 (30545794)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハイデガー / 京都学派 / 和辻哲郎 / 近代批判の政治的含意 / 「黒いノート」 / 反ユダヤ主義 |
研究実績の概要 |
今年度もハイデガーと京都学派の近代批判思想の特色を、とりわけその政治的含意に注目しつつ明らかにするという作業を継続した。元来、26年度は研究の最終年度であったため、研究計画ではそれまでの研究成果の発表に重点を置いていたが、当該年度には実際に、ハイデガーのナチス加担の動機を彼の学長就任演説の分析に基づいて解明を試みた「ハイデガーの大学改革構想」を『ハイデガー読本』に寄稿し、さらに「総力戦時代の哲学――ハイデガーと京都学派――」を『軍事史学』に発表した。まさに後者は本研究の成果の集大成ともいうべき論稿であり、しかも『軍事史学』という歴史学系の雑誌に、哲学の非政治的なイメージの見直しを迫る論稿を発表できたことは、研究成果を世間一般に広く問うという本研究の趣旨に沿ったものであると考えている。 もっとも26年度はこれまでの研究成果の発表だけに注力していたわけではない。ハイデガーについては「黒いノート」と呼ばれる未公刊の手稿が全集版として2014年に刊行され、そのうちに反ユダヤ主義的発言が見いだされるということで、ドイツを中心に各国で大きな論議を引き起こされ、研究者のあいだであらためてハイデガー哲学の政治性が意識されることになった。私としては、本研究においてこれまで獲得されたハイデガー哲学の政治性についての知見に基づいて、ハイデガーの反ユダヤ主義的とされる言明の真意を解明する作業に新たに着手した。その成果の一端が、26年12月に東京ドイツ文化センターで開催された日独哲学会議のワークショップでの私の発表「ハイデガーの「反ユダヤ主義」は何を意味するか」に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究期間全般にわたって、研究成果をコンスタントに発表することができた。その発表形態に関しても、海外における外国語での発表、外国語論文、通常の学術論文、一般向け書物での執筆、国内での一般向けワークショップでの発表など多彩な形態を取り、専門家のみならず、それ以外の幅広い層に対して研究成果を発信するという本研究の目標も想定以上に達成することができた。 また研究内容に関しても、とりわけ物議をかもした反ユダヤ主義的言明をはじめとして、良くも悪くもハイデガーの思想の政治性が明確に示されている彼の未公開の手稿、「黒いノート」が2014年に全集版として刊行され、研究計画時には想定していなかったそうした文献資料の充実により、本研究がハイデガーの近代批判に蔵された政治的含意をより具体的かつ包括的に明らかにできたことも想定以上の成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
ハイデガーの「黒いノート」に関しては、全集4巻にわたる浩瀚さゆえ、まだ全体に目を通すことができていないが、それが執筆された1930年代初頭から1940年代終わりという時代もあいまって、ハイデガー哲学の政治性を明らかにするにあたって貴重な手がかりがまだ多く埋もれていると予想されるので、なお当面、その分析を行っていくことにしたい。その上で、今度はハイデガー思想の政治性をめぐる議論、とりわけ彼の反ユダヤ主義に対する批判に対して、文献学的根拠に基づいた応答を試みることにより、当該主題についての議論の深化に貢献していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国語論文を執筆する際に、ネイティブ・チェック等での謝金を想定していたが、知己に依頼したため、その好意により謝金の支払いが発生しなかった。また書物の購入も想定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果の発表を目的とした研究会参加のための出張費用に使用する予定である。
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