本研究は、唐代の代表的な道教論書である『玄珠録』『道体論』『三論元旨』等を解読し、その思想体系の中に取り込まれた仏教教理がどのようなものであったのか、また、六朝以来、道教固有の思想概念とどのように絡みあって、新たな思想展開を見せていったのかを思想史的観点から明らかにすことを目的とする。 上記の目的に沿って、本年度においては、主として『三論元旨』を分析の対象としてその思想内容の解明を行なうとともに、その詳細な訳注の作成に着手した。この作業を通じて、1)『三論元旨』が取り上げるのは、「道宗」「虚妄」「真源」などの基本概念とそこから派生してくる「道性」「自然」「因縁」「妙本」「三一」「坐忘」など、従来の道仏論争の中で頻繁に取り上げられてきた重要な問題点に関する議論であり、『玄珠録』や『道体論』などと共通の思想的基盤を有する。2)「道」の本体に関しては、『三論元旨』は『道教義枢』などに見られた「道、理也」という解釈をさらに発展させて、「虚妄」「神」「性」との一体性を主張している。3)「自然」と「因果」の関係については、『三論元旨』は玄宗の『老子注疏』の延長上において、「妙本」概念を核とする両者の融合論を発展させている。4)『三論元旨』の論証過程での経証には、主つして『本際経』や『西昇経』『昇玄経』『業報因縁経』などの唐代に盛んに用いられた道教経典が使用されている、などの特徴が見られる。これらの特徴や玄宗の『老子注疏』などとの関係から見て、諸説が存在する『三論元旨』の成立年代については、ほぼ、八世紀半ば以降唐末までの間と推定して間違いはない。 なお、本研究の全體的な成果としては、『玄珠録』『道体論』『三論元旨』の詳細な訳注が作成された。
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