研究課題
平成26年度は、これまでの3年間に行ってきた調査・研究に基づき、唐代までの東アジア仏教医学の様相をまとめた。具体的には、唐代までに成立した医書からすでに失われた医書、あるいは現存するけれども後に校訂を受けて変形した医書を、他の古い医書等から抜き出し、成立年代や改編年代を勘案して比較検討を行った。道教と仏教の医学の相互の関係を調べるため、東晋の道家、葛洪の医書『肘後備急方』散逸医書『玉函方』をとりあげたが、前者は梁の陶弘景が整理した段階で改編されており、陶弘景の意図が大きく反映されていること、後者は唐文帝の諱「涵」と「函」が同音であるため『玉箱方』と改名、若干異なった書名で日本の丹波康頼の医書『医心方』(984成立)が引用していることを示した。医書の整理からは、道仏の医学は別個のものではなく、基本的に互いに医学的知識を共有していたことが推察される。更に、今年度奈良市で開かれた第36回木簡学会の席上で、京都市の平安京施薬院関連施設跡から出土した薬物名を記した木簡のいくつかの処方が、梁の陶弘景の散逸医書『效驗方』に基づくことを発見、即日報告した。道家の薬方が日本で受容されていたことを示す好例である。今年度は国内・海外の学会で、これまでの研究成果を発表した。国内では、第73回日本宗教学会・第66回日本中国学会・第65回道教学会で、海外では台北で開かれた17th International Congress of Oriental Medicine(第十七回国際東洋医学学術会議)で、現在は原形を失っている葛洪の医書『肘後備急方』について連続した内容で発表した。海外では台湾で書誌調査を行い、小島宝素旧蔵書に関する新たな知見を得たが、江戸医学館の幕府医官の実態解明には更なる調査を要する。台湾では現地の研究者と意見交換した。また、これまでの3年間で得られた成果について、資料集を作成した。
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宗教研究
巻: 88-別 ページ: 304, 305
日本医史学雑誌
巻: 60-2 ページ: 209