研究課題/領域番号 |
24520044
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
恩田 裕正 東海大学, 清水教養教育センター, 教授 (70307297)
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研究分担者 |
伊東 貴之 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20251499)
林 文孝 立教大学, 文学部, 教授 (60263745)
松下 道信 皇學館大学, 文学部, 准教授 (90454454)
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キーワード | 中国哲学 / 朱子学 / 朱子語類 / 心身 / 仁 |
研究概要 |
平成25年度は、研究対象である『朱子語類』巻4~6「性理篇」のうち、巻4の訳注作成を進めた。当初は、巻5の訳注作成を中心として研究を進める計画であったが、巻4の訳注作成が遷延しているため、これの完成と早期の出版を優先して研究を遂行した。その結果、四分の一程度の原稿がほぼ完成し、さらに四分の一程度が初稿としてまとまり、全体として巻4の半分程度について訳注のかたちに整えることができた。まだ分量的には満足のいく結果を得られていないが、詳細な注の作成や精確な読解に必要不可欠な関連分野の調査・研究については、後述の通り、平成25年度も一定の成果が得られている。 『朱子語類』の口語語彙や他の巻との関係についての調査・研究においては、恩田・伊東・林が参加する宋明研究会での巻21の輪読、恩田による巻8・94の訳注の作成を通して、本研究に必要な一定の知見が得られた。 朱子学における「仁」などの主要概念については、伊東が主宰する共同研究会「「心身/身心」と「環境」の哲学―東アジアの伝統的概念の再検討とその普遍化の試み―」(国際日本文化研究センター)に全員が参加することや、林が参加する学習院大学外国語教育研究センター研究プロジェクト「中国思想における倫理と功利」研究会などにおける、関連分野の研究者との討議と再検討を通じて、一定の知見を得ることができた。その成果は、平成25年9月に後者の研究会において林によって発表されている。 朱子学の主要概念の展開と宋~金・元代の道教との関わりについては、松下が『道蔵』所収の資料を中心に調査を行い、一定の知見が得られた。その成果は、平成26年3月の遼金西夏史研究会において松下によって発表されている。 このように研究を進めたことによって、『朱子語類』中の口語語彙の意味、朱子学の主要概念の位置づけやその同時代の道教との関わりなどについて一定の知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、『朱子語類』巻4~6「性理篇」について、そこで用いられている口語語彙に関する詳細な分析に基づき、『四書集注』や『朱文公文集』等の朱熹の他の著述や同時代の道教文献との比較検討をふまえて精確な読解を行うことで詳細な訳注を作成し、これにより、朱子学の「仁」概念について、自然・環境の中での心と生身の肉体・身体との関わりにおけるその特質を明らかにすることを目的としており、平成25年度には『朱子語類』巻5の訳注の公刊、巻6の読解と訳注稿の作成を計画していた。 しかし、平成24年度中に予定していた巻4の初稿が完成せず、研究計画で取り決めた役割分担に基づいて、平成25年度も引き続き巻4の訳注作成に注力することにした。巻5以降の翻訳へ拙速に歩を進めなかったのは、本研究の重点が、「わかりやすい翻訳」にあるのではなく、『朱子語類』中の口語語彙の用例研究、朱熹の他の著述及び同時代の儒学や道教の文献との比較研究、それらによる朱子学の「仁」概念の再検討に基づいて、『朱子語類』に詳細な注釈の行うことに重点があることと、巻4での研究成果は巻5~6にも活かせるものであるためである。その結果、訳注稿を作成するために必要な一定の知見が、それぞれの研究分担部分において更に蓄積されており、訳注稿についても進展があった。平成25年度末の時点で巻4のほぼ半分の部分の初稿が完成し、その半分は全員での検討を経てほぼ完成原稿が完成している。 したがって、研究には一定の進展があったものと認められるが、平成24~25年度に公刊を予定していた巻4の訳注を完成することができず、巻5以降の訳注作成には着手できていないため、本研究の「現在までの達成度」は、「(4)遅れている」と判断される。 ただし、本研究での成果の蓄積により、巻4の出版は本研究期間終了後すぐに、巻5~6についても更に2~3年後に実現可能な見通しはついている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が、朱子学の「仁」概念について、自然・環境の中での心と生身の肉体・身体との関わりにおけるその特質を明らかにすることを目的とすることに変更はない。同時に、その具体的な方策として、『朱子語類』巻4~6「性理篇」を対象とし、そこで用いられている口語語彙に関する詳細な分析に基づき、『四書集注』や『朱文公文集』等の朱熹の他の著述や同時代の道教文献との比較検討をふまえて精確な読解を行うことで詳細な訳注を作成する方法を取ることも同様であり、今後も当初の研究計画に示した方策で研究を推進する。したがって、『朱子語類』他巻、朱熹の著作、及び同時代の儒学や道教などの思想についての研究を遂行するため、関係資料・書籍の調査、収集、購入は、平成26年度も継続して実施する予定である。 ただし、『朱子語類』における用例研究や他巻の訳注作成を通して、同書でよく使われる口語語彙の意味・用法の決定を行う作業や、朱熹の他の著述及び同時代の儒学や道教の文献との比較研究による、朱子学の「仁」概念の再検討や中国近世思想史上での再定位、及びそれを訳注として具体的にどのようなかたちで記述するかということについての検討に、予想を超える時間がかかっており、前年度までに巻4の訳注を公表できていない。そのため、平成26年度には、これまでの研究成果を反映した訳注の作成・修訂に特に力を注ぎ、巻4の出版訳注稿を確実に完成させることを目指す。 具体的には、研究代表・分担者全員が巻4訳注初稿を平成26年8月末までに作成し、その後数回の研究集会を開いて修訂・補筆を行い、平成26年末までに巻4の公刊訳注原稿を完成させ、平成27年中に出版できるよう準備を進める。なお、巻4公刊原稿完成後、巻5以降についても本研究の成果に基づいて研究を継続する予定であり、研究期間終了後であるが、平成29~30年に巻5・巻6訳注を出版することを目標としている。
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