研究課題/領域番号 |
24520048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西村 直子 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (90372284)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古代インド / ヤジュルヴェーダ / 祭主 / マントラ / ブラーフマナ / 新月祭 / 満月祭 |
研究概要 |
ヴェーダ祭式は一般に,祭主が祭官に挙行を依頼するという形式で行われる。祭官は祭式執行によって祭主の願望を成就させ,祭主は祭官にその報酬を支払う。ヴェーダ文献には,祭官と祭主の関係に関する議論が数多く現れる。しかし,祭主そのものの実態については殆ど解明されておらず,王族による祭主としての祭式への参加が元来は部分的にしか認められていなかったことも,殆ど知られていない。社会や生活の変化に伴い「祭主」の在り方も変化してゆく。本研究では,ヴェーダ文献における「祭主の章」の翻訳と注解を通じて,当時の祭式や思想の内実と社会の変動とを解明するための,1つの確実な資料を提示することを目指す。 今年度は,ヤジュルヴェーダ各学派のサンヒター及びブラーフマナにおける「祭主の章」について,批判的テキストの確定,翻訳,注解を中心に研究を進めた。この間,各学派間の対応を吟味してゆく過程で,平行関係の認められる章と認められない章とが存在し,その平行関係の有無は章ごと,或いは学派ごとに異なっていることが明らかになった。 この複雑な伝承状況を整理してゆく為に,「祭主の章」自体の精査に先駆けて,ヴェーダ祭式の基本となる「新月祭・満月祭」に関する調査を優先的に行う必要がある。本年度は準備日のマントラ(祭詞,祝詞)の章を精査し,式次第にかかわる問題(祭官のマントラと祭主のマントラとの前後関係など)を目指して,ヤジュルヴェーダ各学派の近縁関係を明らかにする為の比較検討を行った。 また,祭主の来世をも左右する「男児の誕生」に関して,出産時の儀礼並びに神話についても精査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究自体はおおむね順調に進んでいるが,研究計画の内容を一部,順序を変えて行っている。申請時は,24年度中に仮の式次第作成の際に祭式綱要書を参照し,25年度に「新月祭・満月祭」の章の検討に移るべく計画していた。しかしながら,「祭主の章」のマントラ(祭詞,祝詞)の伝承については各学派の間に多くの相違点が見られ,当該章の編集時期は,祭式伝承が固定化されてゆく途上,即ち活発な議論が交わされるような段階に位置していたものと推測される。これを整理してゆく為には,「祭主の章」が背景として想定する特定の祭式(「新月祭・満月祭」と考えるのが妥当であろう)と並行して検討してゆく必要がある。また,「祭主の章」に関する祭式綱要書から得られる情報は,ごく限られた場面に適用されるものであり,祭主以外の祭官たちが一つの祭式の中で担う役割を優先的に検討すべきであることが明らかになった。そこで,24年度の後半には「新月祭・満月祭」の検討を行い,その全体像の把握に努めた。研究遂行の順序には変更を要したものの,計画の全体には大きく影響しないものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は,24年度後半から着手した「新月祭・満月祭」の検討を引き続き行う。特に,タイッティリーヤ派がヴェーダ祭式全体の定式化に果たした役割の大きさが注目される。 「新月祭・満月祭」に関しては,ヤジュルヴェーダの全学派に共通する伝承と,タイッティリーヤ派にのみ伝わる内容,更に,タイッティリーヤ派とヴァージャサネーヤ派とが共有している内容のあることが明らかになっている。その背景にある事情としては,祭主の存在意義が,時代とともに変化しつつあったことが大きな意味を持っていたものと考えられる。 今後は,タイッティリーヤ派の伝承が何をどのように変化させたのかを明らかにすべく,同派より保守的傾向の強いマイトラーヤニーヤ及びカタの両派の伝承と併せて検討してゆく。その一方で,これらの学派よりも革新的性格の強いヴァージャサネーヤ派の伝承とも比較検討し,ヴェーダ祭式と神学議論の発展過程の解明,個々の伝承がその中にどのように位置づけられるのか,という点に留意しつつ精査を進める。 「祭主の章」と「新月祭・満月祭」との検討は,必要に応じて重点の置き方を変えながら,同時に行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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