研究課題/領域番号 |
24520048
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西村 直子 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (90372284)
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キーワード | 古代インド / ヴェーダ祭式 / 祭主 / マントラ / ブラーフマナ / 新月祭・満月祭 / ヤジュルヴェーダ / 印欧語比較言語学 |
研究概要 |
ヴェーダ祭式は一般に,祭主が自らの願望を成就させることを目的とし,祭官に挙行を依頼するという形式で行われる。祭官は祭式執行によって祭主の願望を成就させ,祭主は祭官にその報酬を支払う。ヴェーダ文献には,祭官と祭主の関係に関する議論が数多く現れる。しかし,祭主そのものの実態についてはほとんど解明されておらず,王族による祭主としての祭式への参加が,元来は部分的にしか認められていなかったことも,ほとんど知られていない。社会や生活の変化に伴い,「祭主」のあり方も変化してゆく。本研究では,ヴェーダ文献における「祭主の章」の翻訳と註解を通じて,当時の祭式や思想の内実と社会の変動とを解明するための,一つの確実な資料を提示することを目指す。 今年度は,「祭主の章」の前提とされる伝承を理解するために,『タイッティリーヤ・ブラーフマナ』(B.C.7世紀頃)に収められる準備祭(upavasatha)のマントラ章を精査した。本章はタイッティリーヤ派のみが独自に伝えるものである。一般に,個々のマントラはブラーフマナにおいて引用され,解釈が与えられる。しかし,今回扱ったマントラ章は,同一文献内の準備祭に関するブラーフマナには殆ど引用されていない。一方,タイッティリーヤ派が伝える複数の祭式綱要書(シュラウタスートラ)では,古層の文献が一部のマントラのみを引用するのに対し,「新タイッティリーヤ派」に属する諸文献はほとんどすべてを引用している。すなわち,当該マントラ章の扱いに関して,これを限られたもののみ引用する文献のグループと,ほぼ全体を引用するグループとの二大別が可能となる。このことは,タイッティリーヤ派の文献が編集されてゆく過程と,新月祭・満月祭自体が整備されてゆく過程とを解明する上で重要な示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は『タイッティリーヤ・ブラーフマナ』を中心として新月祭・満月祭の伝承が固定化されてゆく過程を精査した。特に,タイッティリーヤ派が独自に伝えるマントラ章は,祭主が唱えるマントラと,アドヴァリュ祭官が唱えるマントラとを併せて編集されたものである。その意図については様々な可能性が想定されるが,それらは今後祭主の章を検討する際に指針となるものである。また,新月祭・満月祭の全体像については,ヤジュルヴェーダ全学派のマントラ集をローマ字テキストとしてデータ入力し,対応が一覧できる表を完成させた。祭主の章のマントラについても同様の作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに入力したローマ字テキスト及びマントラ一覧表をもとにして,新月祭・満月祭に関する伝承の全体像を明らかにする。一覧表を作成した結果,各学派の伝承には複数の学派に共有されている部分と,一部あるいは単一の学派のみが伝承している部分とがあることがわかった。それらを精査し,ヴェーダ祭式の伝承が形成されてゆく過程を解明する上での問題点を指摘してゆく。また,祭主の章のマントラとブラーフマナのローマ字テキストを完成させ,翻訳および註解を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1月のインド出張の旅費が確定するまでに時間を要し,物品などの購入を迅速に行うことが難しかったため。 25年度末に購入したパーソナルコンピュータ周辺の物品購入を計画している。
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