ヴェーダ祭式は一般に,祭主が自らの願望成就を目的とし,祭官に挙行を依頼するという形式を取る。祭官は祭式によって祭主と神々とを仲介し,祭主は祭官に報酬を払う。ヴェーダ文献には,祭官と祭主との関係を巡る議論が数多く現れる。しかし,祭主の実態については殆ど解明されておらず,王族による祭主としての祭式への参与が,元来は制限されて部分的にしか認められていなかったことも,殆ど知られていない。社会や生活の変化に伴い,「祭主」のあり方も変化する。本研究では,ヴェーダ文献における「祭主の章」の翻訳と注解を通じ,当時の祭式や思想の内実と社会の変動とを解明するための,1つの確実な資料を提示することを目指した。
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