研究課題/領域番号 |
24520051
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
護山 真也 信州大学, 人文学部, 准教授 (60467199)
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キーワード | ラトナキールティ / 主宰神論 / ウトパラデーヴァ / 因果論 / プラジュニャーカラグプタ / 知覚=存在説 |
研究概要 |
1) ラトナキールティの『主宰神証明の論駁』に関するテキスト校訂・訳注作業を進め、片岡啓准教授(九州大学)との研究会等を経て、前主張部分の和訳研究を『南アジア古典学』第9号(2014)に投稿済みである。後主張部分についても試訳は完成しており、同第10号への投稿を予定している。 2) 主宰神論証の歴史を考える上で重要なカシュミール・シヴァ教再認識派の巨匠ウトパラデーヴァの『主宰神証明』を解読し、特にサーンキヤ学派とニヤーヤ学派との間で展開された因果論ならびに解脱論をめぐる論争とそれがウトパラデーヴァの思想に与えた影響について、2013年6月にライプチヒ大学で行われた国際シンポジウム(Around Abhinavagupta)に於いて発表した。また、発表原稿に基づく論文(英文)も公刊予定である。 3) ラトナキールティの仏教哲学の思想的基盤の一つであるプラジュニャーカラグプタ(8世紀)の思想についても研究を進め、特に独創的な〈知覚=存在〉説――ラトナキールティの『多様不二証明論』にも影響を及ぼしたと想定されるものだが――について、esse is percipiの標語で名高いバークリの観念論との比較研究をアテネ大学で開催された第23回国際哲学会議において発表した。また、プラジュニャーカラグプタの原典資料と関連個所の和訳研究を『信州大学人文科学研究』第1号にて公刊した。 4) ラトナキールティの『全知者証明』については先行研究であるBuehnemann著Der allwissende Buddhaを参照しつつ、和訳研究を進めている。 5) 2014年3月に筑波大学で行われた比較哲学のワークショップにて仏教認識論における所与概念についての招待講演を行い、比較哲学研究が抱える諸課題を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 本研究の目的であるラトナキールティ著『主宰神証明の論駁』のテキスト校訂・訳注研究については、片岡啓准教授(九州大学)との研究会などを経て、順調に作業が進んでおり、『南アジア古典学』を媒体として公刊する準備が整っている。 2) 主宰神論証の思想史的意義の解明についても、新たにカシュミール・シヴァ教のウトパラデーヴァの著作を検討することにより、より多角的な視点から、ラトナキールティの議論の価値を見定めることができている。 3) 二度の国際会議・ワークショップへの出席を経て、ドイツをはじめとする各国のインド哲学研究者との交流が深められたことにより、最新の研究状況の把握が容易となった。 4) 本研究はインド神学思想を比較哲学の観点から考察することを目的のひとつとして定めているが、その予備的考察としてプラジュニャーカラグプタの〈知覚=存在〉説とバークリの観念論との比較研究を試みた。また、これとあわせて、筑波大学での招待講演を経験することで、比較哲学研究の諸課題が浮き彫りとなった。平成26年度には、その諸課題を十分に考慮しつつ、インド哲学における主宰神論とキリスト教神学との比較研究に着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 平成26年度には、『主宰神証明の論駁』ならびに『全知者証明』の二作品の訳注研究の完成を目指す。前者の成果は『南アジア古典学』にて発表予定であるが、後者については稲見正浩教授(東京学芸大学)、酒井真道准教授(関西大学)と連携し、上記二作品を含む『ラトナキールティ著作集』全体の和訳研究という形での公刊を準備している。共著者となる二人と随時、会合を重ねながら、本研究を広く一般に公開できる道を開く予定である。 2) 本研究が目指すもう一つの目的である比較神学研究の道筋をつけるために、比較哲学研究の三つの可能性に挑戦する予定である。 2-1) 平成26年8月に開催される国際仏教研究会議(IABS)にて、『因明入正理論』の四相違説をインド仏教論理学との比較の上で考察する。 2-2) 平成26年8月に開催される国際ダルマキールティ学会にて、プラジュニャーカラグプタの〈知覚=存在〉説をバークリの観念論と比較しつつ、インド仏教思想の独自性を明確にする。 2-3) キリスト教神学思想(特にトマス・アクィナス)を比較対象として、インド神学思想との類似性と差異性、そしてそれらが生み出される地域的・文化的・宗教的特性とは何かを探求する。
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次年度の研究費の使用計画 |
書籍購入において年度内に納品されなかったものがあっため、次年度使用額が生じた。 1686円を加えた使用額は、(1) 8月に開催れるウィーン大学で開催される国際仏教学会会議(IABS)、ハイデルベルクで開催される国際ダルマキールティ学会に参加・発表するための旅費、(2) 国内の諸学会・研究会に参加するための旅費、(3) 比較神学研究を進めるために必要な書籍の購入費、複写費用、(4) 資料整理に必要となるパソコン周辺機器の購入に充てられる予定である。
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