本研究の目的は、インド密教経典『ヴァジュラダーカ・タントラ』(10 世紀頃編纂) の主要な計33の章(第 1、7、8、10~22、24、29、30、32~38、41~45、48、50章:計33章)の世界初の梵語校訂テキストと英語訳注ならびにその内容全体の英文概説を完成・提供することである。なお、研究期間3年目から、カンバラ著『サーダナニディ』の関連章(第4~7章)の世界初の梵語校訂テキストの作成も研究目的に加えた。 『ヴァジュラダーカ・タントラ』の基礎研究は、インド・ネパール密教思想史の一面の解明に資するものである。たとえば、インド密教全体の総合を試み、後代のネパールやチベットの密教にも大きな影響を与えた、インド密教の大学僧アバヤーカラグプタの論に一定の影響(とりわけ聖地論や外護摩論において)を与えていることを、研究代表者は明らかにすることができた。また、『ヴァジュラダーカ・タントラ』は他の様々な文献(特に他の密教文献)と共通の偈頌を多く含んでいる。たとえば、(上述の『サーダナニディ』もそうであるが)『サンプタ・タントラ』といった重要だが未校訂の密教文献と多くの偈頌を共有していることを明らかにすることができた。 本研究の目的は、基本的に達成されたと考えている。研究代表者は、その成果の一部を研究期間中にいくつかの公開性ある学術誌に英語で刊行することができた。すなわち、『開智国際大学紀要』に1本、『早稲田大学高等研究所紀要』に2本、『智山勧学会』に1本、である。今後も引き続き、公開性ある学術誌に研究成果を刊行していく予定である。最終的には、研究成果の全体(とりわけ主題材である『ヴァジュラダーカ・タントラ』)を、出版助成を得て、書籍として刊行することを目指す。
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