研究課題/領域番号 |
24520063
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤原 聖子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (10338593)
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研究分担者 |
宮崎 元裕 京都女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (20422917)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 宗教学 / 宗教学全般 / 宗教と教育 / 多文化主義 / 国際情報交換 |
研究概要 |
研究代表者(藤原)は、イギリスとアメリカにおいて聞き取り調査ならびに資料収集を行った。主な成果としては、イギリスでは、(首相等の政治的言説とは対照的に)教育現場に携わる者の間では多文化主義教育の限界は全くといっていいほど認められておらず、むしろその観点から公教育においても宗教の相互理解を一層推進する試みがなされていることがわかった。中でも、政府資金により2009年に発足した「レジリエンス宗教教育プロジェクト」は、宗教的過激派による暴力的事件などを公教育でどのように適切に扱うかについて、初等・中等教育の教員や教職課程の学生の研修を行うものである。資料収集では、多文化主義教育導入以前・以降の時期の宗教教育の教科書やシラバスを約200冊集めることができ、分析を進めている。 アメリカについては、聞き取りの結果、文献資料は記載されていない情報として、地方教育委員会の裁量により、都市部の公立校で「世界の宗教」のような多文化主義的授業が独自に開講されている例があることがわかり、実際に担当している教員から教材資料の提供を得た。しかし、数年内に行われる全国的なカリキュラム改編により、そのような自由裁量の余地がなくなる可能性があることが問題化していた。資料収集では、第二次世界大戦後以降の世界史教科書を約50冊収集し、その中での宗教に関する記述を分析したところ、公教育に関する宗教の扱いに関して公的な基準が設定された1960年代前と後では、いくつかの明らかな変化が見られた。 研究分担者(宮崎)は、トルコにおいて聞き取り調査ならびに資料収集を行った。トルコにおける多文化主義教育は、世俗主義勢力と親イスラーム主義勢力の駆け引きの中で世俗主義国家における宗教教育の正当性を高めるために進められてきた側面があること、2012年の教育改革に伴い宗教教育を強化する動きが生じていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者(藤原)は、イギリス、アメリカについては、本研究に必要な一次資料、二次資料を8~9割収集することができ、まとまった分析を進めることが可能になっただけでなく、最終的な研究成果につながる見通しをいくつか得ることができた。具体的には、まず、2001年までは、公教育における多文化主義的宗教教育は、「宗教文化」の教育(お互いの宗教的生活や信仰を知る)だったが、同時多発テロ以降は、それに加えて「宗教問題」の教育が必要であるという認識が広がっていることがある。それは、宗教と暴力というセンシティブな問題を避けるのではなく、中立的に、かつ積極的に(公益の観点から)それを取り上げる方策を教育界全体で模索する試みである。 もう一つは、多文化主義(あるいはその前段階となる、宗教的中立主義)の導入により、教科書等の教材において、宗教・各宗教が対象化されるという変化が起こったことがある。アメリカの歴史教科書では、それまで各地域の伝統文化として語られていた現象が、特定の「宗教」として切り取られる記述になり、イギリスの宗教科教科書では、宗教が内面的信仰の事がらではなくアイデンティティの問題として描かれるようになった。これらの変化がどのような意味をもつのかについて今後考察を深めたい。 カナダ、シンガポールについては二次資料(イギリス、アメリカ、トルコとの比較ができるようなサーベイ論文等)を集めているが、まだ分析には至っていない。 研究分担者(宮崎)は、トルコについて、近年までの宗教教育を巡る動きと宗教教育が有する多文化主義的な性質を確認することはできた。しかし、昨年の現地調査時は2012年の教育改革に伴う新教育制度の開始直前だったため、新教育制度の内実については思うように情報を集めることができず、当初予定していた資料の翻訳を進めることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね当初の予定通り、研究代表者はイギリス、アメリカの分析を深めながら、トルコ、シンガポールに関する分析を加える。研究分担者はトルコに関する研究を継続し、代表者と成果を相互に検討する。 4月 藤原:研究分担者と、24年度のそれぞれの調査結果を相互に検討し、イギリスとトルコの共通の問題、固有の課題を整理する。それをもとに、分析を確固たるものにするための追加資料の収集を始める。トルコに関する追加資料の重要部分について、翻訳を委託する。 宮崎:トルコに関する情報を研究代表者に提供する。同時に、教育学の視点から研究代表者の分析結果を再検討する。 前期 藤原:イギリス・アメリカに関する分析を進めると同時に、トルコ、シンガポールに関する文献を分析する。8月にはイギリスでの学会参加に併せて情報収集を行う。宮崎:トルコの新教育制度に関する情報収集を行うと同時に、文献を分析する。 後期 藤原:前期の研究を継続するほか、12~2月の間にアメリカ、カナダの大学・高等学校において2週間の現地調査を行い、宗教教育を専門とする研究者に聞き取り調査を行うほか、不足資料を収集する。研究分担者とそれぞれの調査結果を相互に検討する。宮崎:前期の研究を継続するとともに、10~11月に、トルコの大学・初等中等学校において2週間の現地調査を行い、研究者及び初等中等学校教員に聞き取り調査を行うほか、不足資料を収集する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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