研究課題
本研究全体の目的は、「近年、欧州諸国において多文化主義の限界が指摘されているが、それとともに公教育における宗教の扱い方も変化しているのか。そのことを明らかにするために、多文化主義導入の前、後、現在において、公教育での宗教観や宗教の位置づけがどう変遷したかを、国際比較を通して分析する」というものだった。最終年度に至り、研究成果として次のことが明らかになった。多文化主義政策に呼応する、従来の異文化理解的宗教教育によっては暴動やテロの発生を防ぐことができなかったイギリスにおいては、2000年代中頃から宗教教育の方向転換が起こった。これは共同体統合を目的(の一つ)とし、諸宗教をただ知るだけでなく、生徒の社会参画を促し、討議を通して宗教に関わる共通の課題の解決にともに取り組むことを可能にするための教育に向かうものであり、宗教教育の市民性教育的転回、ないしコミュニタリアン的転回と名付けうる動向である。この転回により、宗教の教え方に大きくは3つの変化が起きていることが教科書の分析からわかった。すなわち、①「宗教と暴力(テロ事件)」といった、かつては避けていたトピックを正面からとりあげるとともに、宗教の社会的役割や公益性をも強調していること。②討議の前提として各自の道徳的判断の根拠を意識化させることにより、信者の描き方において「ロボット化」が生じていること。③討議を通して共通の価値を志向させるために、他者の信仰を価値中立的に受け入れるのではなく、それらに対し評価や助言をさせるようなアクティブ・ラーニングが増えていることである。これらの発見とその社会的意義を、イスラム過激派による事件報道が相次ぐアクチュアルな国際状況に照らし、日本にとっても妥当性をもつ議論にまとめている。
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京都女子大学発達教育学部紀要
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Asiatica Ambrosiana
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Textbook Gods: Genre, Text and Teaching Religious Studies
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