1、トルコ共和国イスタンブル市で開催された第9回国際イラン学会にて、「東方の好市場:イブン・イナバとそのサイイド系譜書」と題する研究発表を行った。これは14世紀後半から15世紀に活躍し、預言者一族の系譜学の歴史に重大な足跡を残したイブン・イナバの経歴と業績を、同時代の文化状況、なかんずくペルシア語における歴史叙述の展開の中に位置づけたものである。 2、本研究課題の実施に必要なイスラーム法関係の原典テクストの収集を行った。スンナ派四法学派をできるだけカバーする形で、また、法の運用に当たってのマニュアルとしての性格を持つ文献を含むような形で、入手可能な刊本を収集し、東京大学東洋文化研究所図書室に備えた。 3、シャリーア法廷(イスラーム法に基づいて運営される法廷)にムハンマド一族の系譜を専門とする系譜学者が出廷した折に、彼らの専門知識が証拠としてどのように位置づけられるのかについて、検討を進めた。その結果、(1)系譜学者たちの間には、イスラーム法からは独立した、証拠に関する独自の基準があったこと;(2) 系譜学者たちは、シャリーア法廷に、一般的な証人としてではなく、一種の専門家証人として参加していたこと、の二点につき、確信を持つに至った。 4、英文著書『真正性の番人:中世イスラームにおける預言者一家の系譜学』の執筆を進めた。年度末までに、上記3の内容がその重要な柱の一つとなる第4章の執筆に入っている。
|