研究課題/領域番号 |
24520065
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
八木 久美子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90251561)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | イスラム / 消費 / グローバル化 |
研究概要 |
本研究ではまず、グローバル化によって消費における選択肢が爆発的に増えたということは、イスラム教徒の視点から言えば、世界中からやってくるものの中からイスラムの規範にあったものを選び出さなければならないということに注目する。 しかしながらイスラムという宗教は、厳密な意味での「聖職者」を持たず、「教会」や「法王」に相当するような制度が存在せず、そのことは、消費の場に関していうと、人であれ組織であれ、何を持ってある製品が「イスラム的」であるかを最終的に判断する権威が不在であることを意味する。その結果、人々が特定の商品に(相対的に)高い「イスラム性」を認めてそれを選び取るという行為が積み重なることによって、その時代、その地域の日常におけるイスラム性を決定していくことになる。 しかしながら、今日そうしたイスラムの特性を覆すような動きが出ている。今年度はこの点に着目し、近年東南アジアで注目されている公的なハラール認証機関の動きに注目した。これらの機関は、企業からの要請を受け、調査のうえ、その企業の製品がハラールであること、つまりイスラムの規範にかなっていることを認証するものである。ただ、これらの機関は、その性質上、一律の基準によって製品のイスラム性を判断せざるをえない。しかしながらこれは、本来のイスラム法の思想とは相容れないものである。なぜならば、イスラム法は穢れの有無などモノの性質を問うものではなく、具体的なコンテクストの中で人間の行為の是非を問う行動規範であり、単純な一律化はありえない構造になっているからである。このように特定の機関が製品のイスラム性の判断を独占しつつあるという点、さらにそこにおいてイスラムの規範が持つ行動規範、道徳的な指針という性格が大きく揺らいでいることを明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたとおりの手順で研究を進めていたが、そのなかで食料品を中心とする製品がイスラムの規範にかなっていることを認証する機関であるハラール認証機関の動きが持つ重要性に気づき、この周辺で起きているイスラム法解釈の変容について分析することにした。その結果、元来、道徳的指針であり、人々の行動を、その具体的なコンテクストの中で方向づけてきたイスラムの規範が、「汚れたもの/汚れていないもの」という範疇に近い、モノの性質を問うものへの変容を見せつつあることを明らかにできたのは、手順に変更は発生したものの、成果としては予定以上の大きなものを得ることができたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画で初年度の作業として想定していた、ムスリムがマジョリティを占める地域、とくに中東諸国を対象とし、日常生活に関して「イスラム性」がどのようにとらえられ、それが消費の場においてどのような実践につながっているのかを明らかにする。 日常的に繰り返される消費の中でも、2013年度はとくに食に的を絞る予定である。なぜならばすでにハラール認証の分析を終え、食に関するイスラム性の問題に取り組んでいるが、食行動におけるイスラム性への関心は、豚や酒を避けるというような物理的な基準でのみ表れるわけではないと考えられるからである。特に取り上げようと考えているのは、イスラム教徒にとってもっとも神聖な月であるイスラム暦のラマダーン月の実践である。この月は一般には断食の月として知られているが、実際には、一年の中でこの月が最も食料品の消費が伸びる。とりわけ、肉を中心とする「贅沢品」の消費が格段に増える。つまりラマダーン月には、食が主題化し、(昼間ではなく夜という意味で)いつ、(一人ではなく家族や友人が大勢集まるという意味で)だれと、(普段の食事ではなく肉を含めた贅沢な食事という意味で)なにを食べるかが、イスラム教徒として神聖な一か月を過ごすための重要な関心事となる。 このようにして、食を中心とした消費のありようから、今日のイスラム教徒の持つ「イスラム的」生き方に対する認識を明らかにしていく予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|