研究課題/領域番号 |
24520065
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
八木 久美子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90251561)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イスラム / イスラーム / 消費 / 食 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、昨年度に引き続き、消費行動の中でも食行動に特化して調査を行なった。昨年度はマレーシアで調査を行い、食に関するイスラムの規範が人々の消費行動にどのように反映しているかを調べたが、今年度は同じ調査をエジプトで行い、さらにはラマダーン月の「断食」の実践に関しても調査を行った。 エジプトがマレーシアと異なっているのは、マレーシアには中華系の住民が相当数存在し、かつ経済の中枢を握っているのに対し、エジプトでは数の上でも、力の上でも、イスラム教徒が圧倒的に支配的という点である。この事実は、エジプトの人々が見せる食の規範に対する態度を、マレーシアのそれとはかなり異なったものにしていることが明らかになった。 つまり、エジプトの人々の間には社会の中でイスラムの規範が守られていて当然であるという感覚が強く、食の消費においてとくに規範を遵守しなければならないという意識は強くない。その一方で、何を食べるかではなく、いかに食べるかという点に関心が払われている。たとえば、イスラムの教えの根幹にある施しの精神を重んじ、貧しい人々に食を施すことがイスラム的行為として賞揚される、あるいはラマダーン月には家族、友人が集まって繋がりを再確認しながら食事をするというようなことがイスラム的実践として重要視されるという傾向が近年特に強くなっているのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
食行動を中心とした消費行動が人々の宗教的アイデンティティ形成にいかに関わるか、あるいは宗教的アイデンティティがいかに消費行動に反映されるかを見てきたが、人々の置かれた社会的状況によって、食とイスラム教徒意識とのつながり方には、多様性があることが明らかになった。 さらにはその方向性を定めるのが、かならずしもイスラム法学の専門家の見解というわけではなく、ときには一般社会の経済上の理由、あるいは人々の健康志向、階級意識などが絡み合い、一般信徒の意識と専門家の見解が融合していくという過程が明らかになりつつある。これは当初考えていた以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、衣服に関しても調査研究の対象とする計画であったが、食に関する調査、研究が予想外に充実したものとなっており、平成27年度もこれを続ける予定である。 平成26年度に明らかになった、イスラム法学者と一般信徒の間のコミュニケーションの重要性を踏まえ、いかにして食の規範が原理原則から現実に適用可能なものへと変わっていくかの過程を明らかにしてて行きたい。ファトゥワーを中心としたこの展開は人々の消費行動の方向性を決定するうえで非常に重要であり、これについては平成27年度にとくに焦点を当てる予定である。 平成27年度は最後の年となるので、これまでの成果を8月にドイツのエアフルトで開催されるInternational Association of History of Religionの第21回世界大会で発表する予定である。
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