研究課題/領域番号 |
24520071
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
渡辺 祐子 明治学院大学, 教養部, 教授 (20440183)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 近代中国 / キリスト教 / 政教関係 |
研究概要 |
2012年度(平成24年度)は「清末以降の信教の自由・政教分離原則の導入と定着」の研究を予定し、中国自身がどのようにしてこれらの基本的諸権利を発見し、自らのものとしたのかを解明することを目指した。実際に行ったのは、このテーマを考察するための前提となる「外交圧力による信教の自由をどのようにとらえるべきか」という問題の追及である。 中国が「信教の自由」や「政教分離」の重要性に着目するのは、19世紀末、変法運動の中でであったが、「信教の自由」はそれ以前に、キリスト教伝道の自由、中国人キリスト者のキリスト教信仰の容認という形で、不平等条約によって受け入れざるを得なくさせられていた。つまり中国にとってこの権利は、外交圧力と不可分に記憶されたのである。この権利に与ることができたのは、当然のことながら欧米宣教団体、宣教師、中国人信徒のみであり、ここに他宗教の信仰の自由が入る余地は全くなかった。 この問題を考える道筋は二通りある。ひとつは、当初は敗戦の結果結ばされた条約が保障した「信教の自由」という概念を、中国の知識人はどのようにとらえたのか、この概念は近代国家の大原則として19世紀末からその重要性が少しずつ理解され始めた「信教の自由」の前段階に位置づけることができるのかどうかという角度からの考察である。もうひとつは、不平等条約によって「信教の自由」が保障されているという状況の異常さを、宣教師みずから気づき始めたのはいつからか、具体的に彼らはどのようにこの問題に対処しようとしたかを問う道筋である。 平成24年度は主として後者の問題意識に立ってmissionary archiveを用いた研究を進め、これまで不平等性を押し付けた側として単純化されていた宣教師側に、多様な議論があったことを明らかにしようとした。その重要性に比して先行研究の乏しいテーマだけに、この研究の意義は小さくない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
総じて「研究の目的」に合致した研究を進めることはできたが、進捗は必ずしもはかばかしいとは言えなかった。手がけたテーマが本来の「研究実施計画」の一部分であり、特に康有為、梁啓超ら中国人知識人の「信教の自由」「政教分離」についての関心にほとんど迫ることができなかったことは反省点である。 在華宣教師がみずからが享受している特権のありように疑問を抱き始めるのは、1925年、上海の日本系工場での労働争議が発端となって起きた5・30事件をきっかけとしている。したがって、この事件前後に書かれたた宣教師の手紙、宣教団の報告、本国海外伝道局からの指示などのmissionary archiveを読み込み、どのような議論がそこで交わされたのかをまとめる作業が最も重要となる。ところが報告書類が膨大な量に上り、その読み込みに予想以上に時間がかかった。その結果、他の資料の読解が後手に回ってしまうことになった。 条約特権放棄をめぐる宣教師社会の議論については、論文原稿を年度中に入稿したものの、校正が年度を越し、発刊にはこぎつけなかった(これは現在最終校の段階にある)。
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今後の研究の推進方策 |
「信教の自由」「政教分離原則」を含む近代的諸価値の導入に一定の影響力を行使したキリスト教は、それらの諸価値によって中国を近代文明国家に引き上げ、国民精神を涵養すること、言い換えれば、ナショナリズム形成への参与、支援をその使命としていた。この使命がどのように生み出され、実現されていったのか、あるいはされなかったのかを歴史的に解明しようとする本研究課題を推進するために、在外研究年にあたる今年度は、昨年度の研究実施計画のうち達成できなかった部分、すなわち「信教の自由」「政教分離原則」が清末から民国期に至る中国社会の中でどのように理解され、導入、定着したのかという問題を、宣教師を含むキリスト教の影響に注目しつつ考察する。 これに続いて、キリスト教教育を通して国民精神とナショナリズムの形成に寄与しようとした宣教師が、民国期に至って「キリスト教教育の自由」=「信教の自由」とナショナリズムとの対立という局面を迎えたときに、この問題をどのように理解しようとしたのかを、宣教師どうしの議論、本国伝道局と現場の宣教団体とのやり取り、各宣教師の手記、著作、キリスト教メディアを通して解明する。後者に必要な日本では入手できない中国語資料の一部(キリスト教雑誌など)は、在外研究で訪れる中国において手に入れる予定である。また未だマイクロ化されておらず日本で入手が難しい宣教師資料を閲覧するために、アメリカの資料館での資料調査を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額3,705円は、図書等の消耗品購入に充当する。
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