研究課題/領域番号 |
24520074
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近大姫路大学 |
研究代表者 |
和田 幸司 近大姫路大学, 教育学部, 准教授 (40572607)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 浄土真宗 / 近世被差別民 / 部落寺院 |
研究概要 |
第1に、先行研究の整理と蓄積を行った。部落寺院をめぐる調査研究、近世真宗思想史研究、近世門跡の調査研究の3つの分野の最近の研究動向を整理・分析した。 第2に、部落寺院史料と本願寺史料を収集し史料の分析を行った。特に、本願寺門主からの手紙(消息)や懇志受取証(御印書)、宗教的象徴物や身分的表象物の下付状況を精査した。本願寺門主への人神的信仰状況や政治的な身分上昇が認められない近世被差別民衆の身分階層内での上昇を宗教的に実現していこうとする心性を捉えることができた。近世被差別民衆の身分上昇志向を検討する基礎史料を収集した。 第3に、近世被差別民衆の身分上昇志向をさらに精緻・焦点化するために、宗教的諸観念を国家的序列のうちに総括するものとしての天皇・朝廷を対置させた。そして、近世被差別民衆の上昇志向と本願寺の上昇志向を連結する素材として、本願寺法衣(特に「色衣御免」)の歴史的変遷を明らかにし、宗教上における身分秩序について実証した。その結果、本願寺教団が「貴族化」とともに法衣式を変更させてきた様相、特に、門跡勅許を契機として本願寺教団内の衣裳が天台宗に倣いながら変容してきた点、准如から法如・文如期にかけて、およそ200年の間に、本願寺内における身分格式が細分化・固定化がなされ、伴って衣体の変更が進んだ点を示した。 第4に、摂津国部落寺院と本願寺、大坂津村御坊との三者の往復書簡を留めた「諸国記」の精査・考察を行った。身分上昇を具現化する「色衣御免」が、近世後期に部落寺院と本願寺との重要交渉事項となっている点を捉えた。古代官服に端を発する法衣や色衣の体系が天台宗を通して、本願寺教団に国家的序列として具体化され、近世における宗教上の身分序列化が浸透していたことを示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に示した4項目(1)部落寺院が近世被差別民をつなぐネットワーク拠点であったことを明らかにする、(2)部落寺院門徒の本願寺法主への人神的信仰の様子を明らかにする、(3)身分階層内での上昇を志向する部落寺院門徒の心性を明らかにする、(4)近世被差別民にとっての宗教の意義を明らかにする、のうち、(2)と(3)の史料収集と考察がほぼ終了している。現在、1本の論考が会誌に掲載され、2本の論考が投稿中である。(1)については、今後さらに追加のフィールドワークを行い、史料収集と分析を行いたい。その成果をもとに、(4)の考察を行っていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は身分上昇を志向する近世被差別民衆の心性を明らかにし、近世被差別民にとっての宗教の意義を検討することを目的としている。現在、本研究で検討している身分上昇志向は村(「集団」)としての身分上昇志向である。近年、政治的・制度的に編成された身分を前提とする身分論ではなく、それを含めてあらゆる属性を視野に入れた身分論への転換を提起されている(『〈江戸〉の人と身分』吉川弘文館)。ここでは「身分願望」をキーワードとし、差別化の力に対する平等化の力が生起した事例を検討し、「個人」に身分の主語が置き替えられている。こうした研究状況をふまえ、身分上昇志向としての「集団」と「個人」の関係性を整理する必要がある。この点を大坂渡辺村徳浄寺の寺争論と本願寺の対応を通して、実証的に明らかにしたい。 次に、部落寺院が近世被差別民をつなぐネットワーク拠点であったことを明らかにしていく。近世被差別民衆の真宗への改宗一件である「美作改宗一件」を題材として、備前・備中・美作の改宗寺院受入れのために大坂渡辺村徳浄寺がその担当寺院となっていることから、渡辺村真宗寺院の広範なネットワーク性を明らかにしたい。また、皮革業との関連性にも言及したい。 最後に、宗教上の身分上昇志向の内実の解明である。近世被差別民である部落寺院門徒は宗教的象徴物や身分的表象物の御免を受けることで身分上昇を具現化した。そのためには、多大な上納金(「懇志」)や労働力(「馳走」・「手伝」)の御用が必要であった。つまり、御免と御用はバーターであったと推察できる。この御免と御用の関係を実証的に明らかにする必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、史料撮影用のデジタルカメラを購入する。そして、真宗関係史料図書、天皇朝廷関係文献および身分上昇志向を検討するための、木村敏氏の関係書籍購入を予定している。こうした史料収集のための物品、基本図書関係を整理する。 次に、学会発表や研究会参加のための旅費、本願寺への調査旅費、在地の寺院調査のための旅費が主な使途である。日本法政学会、歴史学研究会、日本史研究会への参加を予定している。京都・大阪への史料調査を予定している。 その他、ファイルやトナーなど文具類・プリンタ消耗品関係の購入、論文投稿時の英訳料が必要である。以上を適正かつ公正に処理していく。
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