研究課題/領域番号 |
24520074
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研究機関 | 近大姫路大学 |
研究代表者 |
和田 幸司 近大姫路大学, 教育学部, 教授 (40572607)
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キーワード | 浄土真宗 / 部落寺院 / 近世被差別民 / 皮多村 / 身分上昇 |
研究概要 |
本研究は身分上昇を志向する近世被差別民である皮多村民衆の心性を明らかにし、近世被差別民にとっての宗教の意義を検討することを目的としている。本年度は、西日本の皮革業の中心的役割を果たした幕末期大坂渡辺村を事例として、①宗教上の身分上昇志向がいかなる様相をもって表出されるのか、②本寺西本願寺はどのような対応を行ったのか、③身分上昇を支える信仰の内実はどうであったのか、について検討した。 その結果、①については、渡辺村門徒は可視的な身分標識を手に入れるために、集団(村)を代表する住持の衣体や法会での上位の着座位置を求め、「類村類寺」での格別の地位確保を要求する様相が明らかになった。このように、信仰と身分上昇志向は表裏一体であった。②については、西本願寺は渡辺村への経済力および労働力への期待から、徳浄寺寺檀争論に異例に関わり、懇志獲得へと動いていたことが明らかになった。両者の確執を利用しながら懇志獲得を成功させていく西本願寺の現実主義的立場を明示することができた。③については、大坂津村御坊への「役」としての消防役、慶応4年(1868)鳥羽伏見の戦いによる混乱下に津村御坊の五尊を避難させる姿などを示す史料によって、「御同朋御同行」の精神が渡辺村門徒の「主体」となっていく様相が明らかになった。 以上から、政治的な身分上昇が認められない部落寺院門徒の身分階層内での上昇を宗教的に実現していこうとする心性と身分上昇志向を支える「御同朋御同行」の精神の具体像を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに予定していた(1)部落寺院が近世被差別民をつなぐネットワーク拠点であったことを明らかにする、(2)身分階層内での上昇を志向する部落寺院門徒の心性を明らかにする、という課題についてはおおむね研究成果として学会報告・学会誌執筆によって、達成できている。 (1)については、渡辺村徳浄寺と正宣寺の事例を通して、美作・備中の部落寺院との連携を有している状況を明らかにすることができた。皮革業を背景とした部落寺院の強力なネットワーク性を指摘できている。また、個々の村内の生活において、信仰が非常に重要な位置づけを有している点を天保期に渡辺村内で仏檀所有の調査を行った事例から示すことができた。 (2)については、渡辺村寺檀争論の分析を通して、政治的な身分上昇が認められない部落寺院門徒の身分階層内での上昇を宗教的に実現していこうとする心性を明らかにすることができた。また、来世での身分上昇を願う門徒の篤信の様相とバーターとしての懇志上納という関係性を指摘することができた。 以上、これまでの検討してきた内容を総合的に考察し、今後は「近世被差別民にとっての宗教の意義」を捉えていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
残された課題はこれまでに分析してきた(1)近世被差別民の本願寺法主への人神的信仰、(2)部落寺院が近世被差別民をつなぐネットワーク拠点であったこと、(3)身分階層内での身分上昇志向の宗教的様相、を総合的に考察していくことである。つまり、今後は「近世被差別民にとっての宗教の意義」を明らかにしていく予定である。 部落寺院が近世被差別民をつなぐネットワークの拠点であり、部落寺院門徒の本願寺法主に対する強い信仰状況を実証的に示すことができた。また、部落寺院が宗教的な地位確保に努力し、村の経済的基盤の確立とともに、さらに高い身分上昇を志向していたことを明らかにした。このように、近世被差別民にとっての宗教(浄土真宗信仰)は、政治的身分・社会的身分を宗教的次元において、越えることができた唯一の手段であり、精神的支柱であった。この近世被差別民にとっての宗教の意義を、今後の研究において明確化したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査にて使用するデータ保存および処理用のタブレット購入が当該年度中には長期間に及ぶ在庫不足のため適わなかった。次年度での購入を予定している。 また、真宗史料に関わる文献、および、史料集の出版が遅れているため、公刊され次第、購入する予定である。 データ処理・保存用タブレットの購入(Surface Pro 2) 真宗史料に関わる史料集および文献の購入(『本願寺史』『大系真宗史料』)
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