研究課題/領域番号 |
24520081
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井上 智勝 埼玉大学, 教養学部, 准教授 (10300972)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神道 / 儒教 / 朝鮮 / 中国 / ベトナム / 霊廟 / 祠堂 / 東アジア |
研究概要 |
交付申請書に記載した「研究実施計画」に掲げた(1)から(5)までの課題について、その成果を述べる。 (1)日本における神道系人神祭祀の通史叙述を、著書『吉田神道の四百年』の中で一定度達成した。元禄期の祖先神祭祀として、下総古河藩主松平信輝の源頼政顕彰の事例を新たに得ることができた。また、柿本人麻呂の祭祀施設に対する現地調査、滋賀県甲賀市における田村神社文書の調査は概ね達成できた。田村神社調査に関連して甲賀市域の神社史料を調査し、その過程で宮座祭祀の新たな位置づけに対する着想を得た。小野道風・松尾芭蕉の祭祀についても基本資料の確認を行った。 (2)近世日本における儒教系人神祭祀の実態把握のため、「足利学校記録」活字本による調査に着手した。湯島聖堂についても、「昌平坂学問所日記」活字本を入手し、解析を始めた。また、儒教秩序に準拠した武家霊廟の事例を把握した。近世日本の儒教と祭祀の関係に関する研究報告を1本行った。 (3)ベトナムの人神祭祀に関する事項の抽出は、地誌・石碑拓本集などから行っている。拓本集続刊の収集に努め、新たに刊行された目録第8巻を入手したほか、「神蹟」の実例を得るとともに、ベトナム戦争の戦死者を合祀するデンの存在についての情報を得た。ベトナムと日本の国家祭祀を比較した研究報告1本を行った。 (4)琉球における人神祭祀の希薄さの確認について、いくつかの研究論文から知見を得た。 (5)外国の現地研究者との情報交換のなかで、時宜を得たために翌年度から予定していた韓国での人神祭祀に関する研究を進めた。朝鮮国王家宗廟の内部調査に加え、邑誌の収集や錦城大君壇、張保皐を祀る祠堂、王仁を祀る祠堂などの踏査を行い、次年度の初望日に行われる錦城大君の祭祀の調査について、現地の関係者と調整を始めることができた。中国天津北部の薊県でも大工魯班の祭祀施設の現地調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究実施計画」に掲げた(1)から(5)までの課題に即して、研究の達成度と自己評価を述べる。 (1)日本における神道系人神祭祀の通史叙述については、著書『吉田神道の四百年』の中で一定度達成したが、元禄期に源氏祖先が霊廟から神になったプロセスを十分に組み込めていない点でなお不十分である。この点は本年度に達成すべき課題として掲げていたが、研究の過程で同時期の幕藩領主による源氏祖先神祭祀の例を新たに得たため、これを加味する必要が生じ、結論づけることを見合わせた。武内宿禰・和気清麻呂の祭祀にについては、目立った進展がなかった。この理由は(5)で述べる。 (2)近世日本における儒教系人神祭祀の実態把握、(3)ベトナムにおける人神祭祀の検討については、概ね順調に進展している。 (4)琉球における人神祭祀の希薄さの確認について、『球陽』『中山世譜』『琉球史料叢書』による確認作業には至らなかった。この理由は(5)で述べる。 (5)韓国の人神祭祀施設の調査は大きく進展した。この調査は主として来年度以降に予定していた調査であるが、現地研究者との情報交換の中で時宜を得たために、本年度より着手した。祭祀の実態や現在の祭祀の状況・日程、調査の可否に関する情報などを把握することが出来、来年度以降より深い現地調査をなしうる土台を築くことができた点において有意義であった。ただ、こちらに力を傾注してしまったために、本年度に予定していた武内宿禰・和気清麻呂の祭祀や琉球に関する文献調査は手つかずになってしまった。しかし、研究を総体的に見れば、概ね順調に進行していると評価することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度予定していて達成できていない部分を挽回しながら、当初の研究推進計画に沿って研究を推進してゆくことが基本的な方向性である。 国内の研究推進では、地元に還元できる形での研究成果の報告も行う方向で検討する。 外国における調査では、当初から重点的な調査を予定していたベトナムについて現地調査を積極的に進めるのみならず、より踏み込んだ調査が可能になる見通しが得られた韓国での調査も併せて強く推進してゆく。 外国調査については、研究開始当初以上に研究環境が整ってきている。ベトナムについては本年度、国家大学ハノイ校人文社会科学大学の范黎輝氏、国立歴史博物館の丁麗玄氏ら現地の研究機関に勤務する研究者と研究交流を行う機会を得たため、彼らとの相互協力の中で、より充実した研究の推進が期待される。また韓国については、本年度秋期より私が指導教員となった本学大学院生崔載國君の助力を得て、文献や資料の整理・分析を行うことの承諾を得ている。中国に関しても、立命館大学大学院生方阿離君の助力が得られることになった。このような状況を、良い形で研究の推進に結びつけてゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額の発生は、研究課題のうち未達成部分の存在に起因するものもあるが、外国調査時における先方の厚意等により謝金が必要となる局面が当初予定を下回ったこととと、安価な通信手段を積極的に活用したり、所属研究機関での複写を心がけたりすることで、その他経費(複写経費・通信費)の使用が抑制されたことに起因するところも大きい。このようにして発生した経費は、外国人研究者との国際情報交換や、研究成果の社会還元に活用することによって、本研究の深化を図りながら、日本の学術成果の国際化と地域社会の活性化に役立てたいと考えている。 翌年度以降の研究経費の使用については、概ね予定どおりの支出を想定しているが、以上のような次年度使用額の存在を念頭に、当初予定になかった以下のような用途に使用することを検討したい。 まず、ベトナムあるいは韓国から研究者を招聘し、本研究に関わる課題でシンポジウム等の研究交流会を開催することである。本研究課題の研究費の一部だけでこれをまかなうことが困難な場合、勤務先の諸競争的資金の獲得に努めたり、他の国内研究者との共同開催などの形も検討して、実現を図りたい。 また、新出・未公開の田村神社文書について、議論を多くの研究者と共有できるよう、論文発表の前提として簡単な報告書を刊行することを検討したい。もし可能な場合、甲賀市の関係部局からは、積極的に協力していただけることを申し出ていただいている。
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