研究課題/領域番号 |
24520081
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井上 智勝 埼玉大学, 教養学部, 教授 (10300972)
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キーワード | 祭祀 / 人神 / 霊廟 / ベトナム / 韓国 / 府君堂 / 田村神社 |
研究概要 |
【研究報告】本年度は、昨年度報告した近世日本と儒教に関する研究報告を原稿化したほか、神・儒・仏の交点としての武家霊廟の性格についての研究報告を1本持った。そこでは、武家霊廟から神へという過程に儒教の「神」観念が関係していたことを報告した。これは直接、源氏祖先霊廟を扱ったものではないが、本研究において懸案となっていた、源氏祖先霊の神格化の過程にも適用できるものである。 【国内調査】①甲賀市の田村神社から新たに文書が発見されたため、その調査を行い、26年度に目録を付した報告書を刊行することとした。②功臣系祭祀について、和気清麻呂の祭祀が近世後期の対外関係の深化の中で現れてきたことを示す史料を得たことで、叙述の見通しを立てることができた。③琉球については、御嶽などの現地踏査を行った。だが、琉球には孔子や馬祖などのほか目立った人神祭祀は確認できなかった。なお、近代に建立され既に廃絶した「沖縄神社」には舜天王・尚円王・尚泰王らが祀られていた事実がある。 【国外調査】①ベトナムにおける人神祭祀について、北寧省順成県青湘社のLuy Lau城跡に「南交学祖」士燮を祀る施設を見出して実地調査した。同時に、同県内で複数の「神跡」の事例も得ることができた。②韓国における調査は、ソウル市文化財課の呉文仙氏のソウル市内の府君堂祭祀に関する研究を入手したことで、大きく進展した。呉氏の格別のご協力を得てソウル市龍山区にある新羅の将軍金ユ信を祀る府君堂などの祭祀調査と、巫女の方への聞き取り調査を行うことができた。この調査によって、現在における人神祭祀の実態と、巫者への神の憑依についての理解を大いに深めることができた。なお、江陵にも金ユ信を祀る祠堂(花浮山祠)があり、調査に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)日本における神道系人神祭祀の通史叙述については、武家霊廟から神へという過程に儒教の「神」観念が関係していたことの発見と、和気清麻呂の祭祀に関する史料を得たことで、残されていた2つの課題を概ね解決できた。ただ、近世日本における儒教系人神祭祀の実態把握は、本年度中に終える予定であったが、若干の積み残しが存在する。とはいえ、作業量はそれほど多くはなく、日本の人神祭祀の通史的叙述についての補強材料は揃いつつあると考えている。 (2)琉球については、近世期においては、人神祭祀が希薄なことが概ね確認できた。 (3)ベトナム・韓国においては、人神祭祀が盛んな様子を確認することができている。その祭祀対象に、歴史上の著名人が多いことも注目されるところである。したがって、これら両国については、人神祭祀の叙述が試行的に開始しうる段階に至っていると考えている。ただ、中国における調査事例は未だ少ない。調査対象地も未だ絞り切れていないので、早急に進めなければならない点である。
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今後の研究の推進方策 |
【国内調査】①近世日本における儒教系人神祭祀の実態把握について、文献調査を早急に完了させ、それを踏まえて通史的叙述を完成させる。②甲賀市の田村神社文書の報告書を完成・刊行する。 【国外調査】①中国での人神祭祀の実態調査の成果が手薄なため、早急に調査地を絞り、調査を遂行する。②ベトナム北寧省順成県内には、士燮の陵や涇陽王の祭祀施設が存在することも文献にに記されているため、調査を試みたい。あわせて、阮朝の歴代帝王祭祀の対象施設の調査も行いたい。③昨年度予定していた韓国における錦城大君の祭祀調査は、本年度の祭礼日が大学の入試と重なったために執行できなかった。だが、現地の方々の協力は得られる見込みであるため、年度の末ではあるが、遂行し、成果に組み込みたい。 【研究報告】①東アジア諸国の人神祭祀についての研究成果を論文化する。②国内・国際学会で研究成果を発表する。③最終報告書を作成する。 【その他】適宜、補充・確認調査を行い、研究の精度を高める。
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次年度の研究費の使用計画 |
韓国の調査では、大学院生の崔載國君に通訳を依頼することができたため、当初予定していた通訳等の謝金の支出が抑制された。 研究成果の社会還元のために、田村神社の報告書の作成費に充当したい。
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