本年度は、これまでの成果をまとめ、これを東アジア規模で共有する報告書を作成することが主目標であった。そのため成果の翻訳、田村神社文書の目録化に重点を置いて成果の取りまとめを行った。成果の翻訳については、2012年度に韓国で調査した巫女の方からの聞き取り調査の日本語訳、本研究の前提となった研究ならびに本研究成果のうち主要なもの各1本につき、中国語訳・韓国語訳を行った。田村神社文書については、近世・近代文書の目録データ作成を完了した。 そのほか、総括的な論文3本を公表するとともに、総括的な研究報告を3本行った。公表・報告した主要な点以下に記す。(1)日本の人神祭祀を考えるに当たって、儒教的な規範が広く庶民層まで共有された近世日本の歴史性、すなわち日本宗教史における儒教の位置づけを考慮する必要があることの指摘、(2)明治維新期の国家祭祀が日本の宗教の儒教化と位置づけられることの指摘、(3)ベトナムの人神祭祀は儒教的論理に基づき顕彰的に行われていることの指摘と日本との比較の視座の確保、(4)既存の「生き神」信仰論への批判、(5)日本の宗教構造を考えるに当たって儒教の位置づけを探り、近世日本の宗教構造を図式化して提示。 また、昨年度行った陳化成に対する調査・研究を深化させる中で、中国ビン(「門」に「虫」)南地域の宗教施設に対する知見が深まった。ビン南地域の信仰や宗教施設の在り方は、祠廟の形態を含めてベトナムのそれと近似することに気づいた。台湾の信仰もまたビン南と近似していること、琉球国がビン南地域と密接な繋がりをもっていたことは夙に指摘されている。本研究は副次的ながらも、このような点での研究の展開にも、裨益しうるものとなった。
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