当初計画に従って、平成26年度にはサヴァリーの『通商辞典』1748年版(『百科全書』刊行時における最新版)の調査を行った。『百科全書』はこの文献を幅広く活用しており、その範囲は通商関係の項目にとどまらない。地名を掲げて世界各地の通商実態を述べた記述については、その地名を見出し語に取り込む形で、主としてディドロが『百科全書』の初期の数巻で利用していることが明確になった。しかし、こうした利用実態は、あくまでも初期に限られる。 全期間を通じた研究で明らかになったことだが、『百科全書』の地理項目の典拠は、前半と後半とで大いに異なっている。それは地理項目の担当者がディドロからジョクールに交代したことに関係しており、その境界は第7巻辺りに認められる。この研究課題で調査した文献は、もっぱらディドロが書いた項目(無署名だがディドロ執筆と推定されるものを含む)に関する典拠であることが判明した。 しかし、ジョクールの担当部分については、なお未解明の部分が多く残された。現段階で言えるのは、ヴォジヤン『携帯地理事典』、『トレヴー事典』、モレリ『歴史大事典』、サヴァリー『通商事典』の四点がジョクールの典拠ではないことである。ブリュザン・ド・ラ・マルティニエール『地理大事典』については、ジョクールの記述と一致する点が多いが、断定するには若干の疑問点が解消されていない。ブリュザンをふまえた別典拠の存在を排除することができないからである。そうした文献が存在するのかどうか、その探求が今後の主たる課題である。 なお、この研究課題に関連して、ロシア科学アカデミーから要請を受けて、啓蒙時代の地理を特集した論文集への寄稿を行った(フランス語)。論文原稿自体は平成26年10月に提出し、先頃校正を済ませたところであり、公刊されるのは2015(平成27)年の夏頃と聞いている。
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