研究課題/領域番号 |
24520087
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
長 志珠絵 神戸大学, その他の研究科, 教授 (30271399)
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研究分担者 |
佐々木 和子 神戸大学, 地域連携推進室, 地域連携研究員 (20437437)
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キーワード | 空襲 / 東アジア / 防空 / 米国戦略爆撃調査団 |
研究概要 |
2年目の研究実績としては、帝国のアジア忘却と占領期の空襲被害の忘却との密接な関係についての論考を含め、単著として、『占領期・占領空間と戦争の記憶』(有志舎,全378頁)を上辞した。同書については11月、東京大空襲戦災資料センターでの「空襲後の都市社会と諸運動に関する歴史学的研究」(政治経済研究所プロジェクト研究) にて、12月には立命館大学にて「主権と空間」第4回研究会にて、それぞれ書評会が行われ、活発な議論が行われた。研究者交流、学際的な研究課題情報の確認という点でも有意義であった。他、占領期を射程に入れた空間配置を問うた論文「“CITY MAP OF KYOTO”を「読む」」(『アリーナ』15)を発表した。ことに史料調査としては、米軍資料の調査に着手し、米国ワシントンのナショナルアーカイブスおよび議会図書館にて主に、占領初期の米国戦略爆撃調査団による日本人への聞き取り調査の音声テープ資料についての予備調査と収集を進めた。また東アジアの空襲として、投下する側から見た朝鮮半島への任務報告書等について写真記録を中心に予備調査と収集を進めた。成果に関わる研究会としては、日本史研究会9月例会「空襲研究を考える」を持ち、長によるコーディネートと司会をつとめた。事前に科研研究会として打ち合せ研究会を持った。また海外での成果報告として、10月には米国、ニューヨーク大学NYU(U.S.A)で開催されたシンポジム;Borders,Frontiers,Minsyu-民衆・境界・辺境-において、「人種とジェンダーの視点から見る戦後日本の空襲の記憶と記録」 の口頭報告を行った。空襲研究は、占領期および戦後の空襲記録運動の持つ空間認識に射程を広げることで、東アジアの植民地空間の忘却や冷戦下での防空意識といった戦争認識のあり方へと課題が広がることが口頭報告やシンポジウム等によって確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の台湾、韓国での調査と研究会への参加や口頭報告を通じ、東アジア規模に広がる戦時下の空襲空爆をめぐる問題系が戦後の戦争認識や市民運動、人権思想のあり方といった戦後の社会運動や思想と密接な関わりを持つことことが出来たが今年度ではそうしたさらに、北米での日本学シンポジウムでその成果を口頭報告することで、問題の持つ普遍性や戦争の記憶、戦争認識論の磁場としての占領期、戦後思想史としての課題についての議論を交わすことができた。また日本史研究会という全国学会の2013年度9月例会として「空襲」研究をとりあげる企画を持つことで、空襲研究の現状や課題を広く学会に提起することができたことや、そこでの議論および北米文書館等での調査を通じ、戦後日本思想史における帝国の忘却という課題や戦後冷戦下での東アジア認識をめぐって、防空や空襲の持つ植民地主義的要素、さらには米国調査機関から見た東アジア世界と空襲という視座の可能性を確認することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では史料調査と研究状況をふまえ最終年度ではシンポジウム開催として準備をすすめてきたが、台湾、韓国での研究主題が日本での蓄積とズレがあること(初年度)、米国調査の結果、史料的に新たな展望が可能であること(2年目)、また内外学会での口頭報告等を通じ(2年目)、当初招請者として予定していた海外研究者から逆に、オランダ、韓国での日本学関係や戦争の記憶に関する国際シンポジウムに招請され、報告・討論・論文執筆の機会があたえられたこと(最終年度)などをふまえ、この主題への国際的な注目度の高まりを確認することができた。このため、当初のシンポジウムとしてではなく、史料調査と海外での口頭報告発表及び議論と研究者交流を行うことを最終年度では行い、このための経費を申請することとした。ただしこれらは大きな変更ではなく、また国際交流、情報交換という点で極めて有意義であると思われる。
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