西村茂樹が、英語原書から翻訳した手書き資料について、原書調査を継続的に行うとともに、原書の著者の調査も継続的に行った。他方、手書き資料の電子媒体への翻刻を最終点検し、判読不明な箇所の解消に努めた。このことにより、国立国会図書館や研究者による資料調査と分類における不十分な点を正すことができた。資料の原書および著者を新たに発見した以外に、同一資料であるかのように扱われてきたものが別の資料との合綴であったことや、別の資料であるかのように扱われてきたいくつかの資料が同一原書についての異なる時期における翻訳であることなどを明らかにすることができた。 翻刻した資料は42点であるが、1点は同一原書の時期を異にする翻訳なので、翻刻した資料は実質的に41点であるとした方がよいであろう。そのうち、翻訳原書を確認できなかった資料は4点である。確認できた原書については、そのすべてについて、著者を明らかにし、簡単な経歴を示す解題を付してPDF化して、インターネット上で公開した。別途、同じものを紙媒体の冊子に製本して研究者に頒布した 西村の行った翻訳資料について、翻訳方法や翻訳内容を分析することで、彼の思想の性格に深く分析できなかったのは、時間的制約にもよるが、遺憾なことであった。また、資料の翻訳時期の特定もできなかったことも不満の残るところである。 ただし、思想分析の不十分さを補う意味で、西村茂樹における洋学研究が日本道徳の提唱と平行していることを指摘し、そのことが西村個人の思想にとどまるのではなく、近代日本思想そのものの特質でもあることを指摘する論考を、別途、公表している。 本研究では、西村の英語原書からの翻訳が、広範な学問分野を対象としていること、それにもとづいて日本道徳の提唱がなされていることを確認している。そのことは、その後に展開する国民道徳論の性格を研究する計画にとって、重要な視角を与えている。
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