第二年度末(2015年3月24日)に、これまでのガンディー研究をまとめた『身の丈の経済論-ガンディー思想とその系譜』を法政大学出版局から出版したことをきっかけとして、日本の内外で研究報告や講演を行うことが多かった。とりわけ、8月にトルコ・イスタンブールで行われた国際平和研究学会(International Peace Research Association: IPRA)では、"Gandhism for Conviviality"と題する研究報告を行った。また9月には、チェンマイ大学で、2月にはデリー大学およびチュラロンコーン大学で講演を行った。 イヴァン・イリイチの概念化した「コンヴィヴィアリティ」は、日本語では「自立共生」ないしは「共愉」などと訳されるもので、本研究テーマである「ガンディーの国家観」を説明するうえで、きわめて重要である。すなわち、ガンディーは、ヒンドゥーとムスリムの対立を越えて、インド人がイギリスから一つの「国民」として独立することを悲願としたが、そのためには人々に「コンヴィヴィアルな」倫理を求める必要があったのである。こうした倫理観は、インド社会内部において先鋭化し、分離独立の主要因ともなったコミュナリズムに対抗する意味合いがガンディーにはあった。彼は、人々が、宗教的違いを超えて互いに尊重しあえるような社会を理想としていたのである。それは、そのまま社会を「万人の万人に対する闘争」の場と見たホッブス流の近代的国家観とも、諸個人が共通善を最大化するための社会契約の結果としてのルソーの国家観とも異なっている。人々の「共生」を前提としたガンディーの国家観は、ナショナリズムを軸として領土や資源の獲得競争がいっそう深刻化しうる21世紀において、人類に大きな示唆を与えるものとなるであろう。
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