本研究は、近年、思想的観点から批判にさらされている主権論を、歴史的に、とりわけ日本近代におけるその受容と展開に焦点を合わせて再検討した。主権論に対する思想的な批判とは、全能性を標榜する主権論の暴力性を告発するものである。そこで本研究が提起した問いとは、以下のようなものである。歴史的に見て、制度的秩序の定礎となってきたのは全能者の観念であるのか。日本において、まず主権論は主権者論として受容されたが、天皇主権説への批判の中から、日本の歴史的・制度的観念に依拠し、主権概念が主権者に還元されないことを指摘する見解が現れており、そこから制度的秩序の現代的な正統性論としての主権論の可能性を明らかにした。
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