研究課題/領域番号 |
24520100
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 篤 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10212226)
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キーワード | マネ / ファンタン=ラトゥール / レアリスム |
研究概要 |
平成25年度は平成26年2月28日~3月29日にフランスで調査を行った。1860年代のマネ周辺の画家たちのうちで、特にアルフォンス・ルグロの作品について調べるため、パリのオルセー美術館(《加辱刑》《十字架磔刑像》)、ディジョン美術館(《エクス・ウォト》)、アランソン美術館(《聖フランチェスコの召命》)で実地に作品を観察し、関連資料を収集した。パリのフランス国立図書館では、19世紀フランスの写真を調査するとともに、1850年代末から1860年 代半ばのサロン(官展)の批評記事を調査した。1859年、1861年、1863年、1864年、1865年のサロン批評のなか で、「ポスト・レアリスト」たちの作品に言及している記事を洗い出し、その評価の実態を探った。また、必要に応じて、19世紀当時の文献資料や最新の研究文献を購入し、活用した。 帰国後、調査旅行で収集した結果を日本で整理し、関連資料と合わせて分析した。サロン批評の調査結果も踏まえながら、ルグロの造形手法に関して、マネやファンタン=ラトゥールの場合と比較検討した。クールベのレアリスムの影響、奥行きの浅い空間表現、画中画の挿入、コラージュやアッサンブラージュなどの視点から、ポスト・レアリストの一員としてのルグロの特質が浮かび上がってきた。レアリスムという言葉が使われながらも、1850年代のレアリスムとは位相の異なる絵画が出現したことが、「タブロー(絵)」と「モルソー(断片)」という言葉の使い方からも推定されることは、重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、19世紀フランス絵画史で重要な位置を占める画家マネおよび同世代の前衛画家たちの画業を 、クールベ以後の絵画における新しい現実表象という観点から1860年代の「ポスト・レアリスム」の絵画と捉え 、その特質を調査研究することにある。取り上げる画家はマネ以外に、アンリ・ファンタン=ラトゥール、アルフォンス・ルグロ、ジェイムズ・ホイ ッスラー、エドガー・ドガである。 1年目の調査でマネとファンタン=ラトゥールの作品と資料を調査したが、2年目の調査ではルグロの作品と資料を調査することができた。なお、同じく2年目に予定していたホイッスラーの作品調査は来年度に延期することにした。ポスト・レアリストを取り巻くイメージの環境(美術全集、美術雑誌、版画、写真)に関しては、とりわけ同時代写真についてフランス国立図書館で調査できたことは重要な成果であった。そうした結果を受けて、新たなレアリスムを模索するルグロを含めたマネ周辺の画家たちが、絵画の枠組みの意識化、イメージのアッサンブラージュ、画中画や鏡の挿入、平面的な画面構成など、多様な手法を用いて「現実」表象に取り組んだことを分析できたことは大きな成果であった。伝統的な「タブロー」を崩壊に導いた西洋近代絵画史の変革期の様相を解明し、新たな歴史的位置づけを行うための契機になるからである。 したがって、ホイッスラーの調査を来年度に回したことでやや遅れ気味ではあるが、おおむね順調な調査研究を行ったと見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
1、2年目の研究成果を踏まえて、3年目の研究方針を決める。「ポスト・レアリスム」世代の画家たちの作品調査としては、マネ、ファンタン=ラトゥール、ルグロについて行ったので、3年目はホイッスラーとドガを対象とする。彼らの作品は主にフランスとアメリカの美術館に分散しているので、効率的に調査するよう計画を立てたい。作品の批評記事の収集もしなければならない。ホイッスラーの書簡については、グラスゴー大学図書館がインターネットで公開しているので、それを活用する。 1860年代のイメージ環境調査に関しては、同時代の写真に加えて版画も探索する。日本の町田市立国際版画美術館で、マネ、ファンタン、ルグロ、ホイッスラーらが参加していた「腐蝕銅版画家協会」が発行した、オリジナル版画を調査する。パリの国立図書館では、19世紀当時の美術全集、美術雑誌を検証した上で、当時の版画とその他の画像資料を集中的に調べることになる。また、複製イメージ(版画や写真)に言及した文献資料についても、絵画との関連性に重点を置きつつ調べなくてはならない。 造形分析という観点からは、新たなレアリスム絵画を模索する画家たちが、絵画の自由な枠取り、既存のイメージのアッサンブラージュ、画中画や鏡や開口部の挿入、平面性を意識した画面構成などを通して「現実」の表象、再構成に取り組んだことはほぼわかっている。その姿勢、方向性が、どの程度の範囲の画家たちに共有されていたのか、ポスト・レアリストたちに特徴的な手法、技法かどうかについても検証していきたい。その際に、新たな課題としてジャポニスム(日本美術の影響)という視点についても考察に加えたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していたホイッスラーの作品調査を次年度に延期することにしたので、予算に剰余が生じた。 第1回目の調査は平成26年11月にパリで行う。パリのオルセー美術館でドガの初期作品を実地調査し、同美術館の絵画資料室で作品に関するデータや関連資料を収集する。ドガもまたモチーフの切断や斬新な画面構成に意を用いて、新しい「タブロー」を創り出そうとした重要な画家である。フランス国立図書館で写真資料とサロン批評の補足調査も行いたい。第2回目の調査は平成27年1月にワシントンのフリーア・ギャラリーとナショナル・ギャラリー、ニューヨークのメトロポリタン美術館で行う。主としてホイッスラー、さらにマネとドガの作品が対象となる。 前年度と同じく、調査旅行で収集した資料を日本で整理し、分析する。最終年度なので、研究全体のまとめも行いたい。
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