平成26年度はアメリカとフランスで調査を行い、その結果を分析した。 第1回目調査旅行(ワシントン、ニューヨーク)ではホイッスラーの作品を主たる対象とし、 ワシントンのフーリア・ギャラリーで《緑色とバラ色のハーモニー:音楽室》(1860-61年)、《紫色と金色の奇想曲:金屏風》(1864年)、孔雀の間の《磁器の国の姫君》(1865年)を空間表現、画中画、ジャポニスムなどの側面から調査した。画中画に関しては、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵するドガの《版画愛好家》(1866年)、《ジェイムズ・ティソの肖像》(1867-1868年)も重要な作品で、詳しく観察した。 第2回目調査旅行(パリ)では、オルセー美術館でドガの初期作品(《ベルレッリ家の肖像》(1858-1867年)、《ドガとエヴァリスト・ダ・ヴァレルヌ》(1865年頃)等)を詳細に実地調査し、同時に同美術館の絵画資料室で当該作品に関するデータや関連資料を収集した。最終年度に当たるので、フランス国立図書館で写真資料とサロン批評の補足調査も行った。 調査旅行で収集した資料を日本で整理し、分析した。最終的にマネ、ファンタン=ラトゥール、ドガ、ルグロ、ホイッスラーの5人の画家たちの作品調査とイメージ環境の分析結果を総合的に考察した。1860年代のフランス絵画を「ポスト・レアリスム」という新しい切り口から捉え、マネを始めとする画家たちに共通する美意識や造形手法(枠組みの意識化と作品の切断、イメージのアッサンブラージュ、画中画や鏡の挿入、平面的な画面構成等々)をあぶり出すことができた。西洋絵画史から見れば、ストイキツァ教授の言う16世紀から17世紀における「タブローの成立」に対して、「タブローの崩壊」と「近代的なタブローの生成」とも言うべき現象が出来したのがまさに1860年代のフランスであり、マネを中核とする「ポスト・レアリスト」たちがそれを担ったのである。
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