研究課題/領域番号 |
24520101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小田部 胤久 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80211142)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 美学 / 感性論 / 微小表象 / 無意識 / 快 / 現実態としての感覚 / 経験的心理学 / 習慣 |
研究概要 |
本研究は、美学の始祖バウムガルテンが「美学」を「感性的認識の学」と定義したことに基づきつつ、美学史を感性の学の歴史として捉え返すことを目指すものである。本年度の研究は大きく三つの主題からなる。 第一に、バウムガルテンによる定義が前提としているライプニッツ哲学に遡りつつ、ライプニッツのモナド論がクリスティアン・ヴォルフを通して「経験的心理学」という学問に結実し、これが18世紀後半の「感性論」としての美学の成立を支えたことを明らかにした。その成果は「美学の生成と無意識」(『思想』2013年4月)に公刊した。 第二に、西洋哲学の原点ともいうべきプラトンの感性観について検討を加えた。通常プラトン主義は一般に感性を否定する立場とみなされてきた。たしかにそうした捉え方は原則的には正しいとはいえ、しかし、プラトンの感性論はこうした主張に終始するものではない。プラトンは、一方では感性が感性として機能するための生理学的条件を問い、個々の感覚器官に関する唯物論的説明を試み、他方では、想起や間接知に代表されるように、可感的なものが可知的なものの認識のための出発点ないし例として機能することを明らかにしつつ、同時にまた、習慣を通して感性的世界の秩序を自らのうちに具現する能力として感性を捉える。感性へのこうした多層的な接近のゆえに、プラトンは感性論としての美学にとってすぐれた源泉たりえていることを示した。 第三に、プラトンを批判したアリストテレスの感性論を議論の対象とし、アリストテレスが感覚を誤謬から解放し、また感覚をその現実態に即して「生きること」の一環として正当化していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は研究の1年目であるが、「感性の理論史」という課題にとって重要な位置を占めるバウムガルテン、プラトン、アリストテレスについておおよその見通しをうることができた。とりわけ、バウムガルテンの感性論を特徴づける「経験的心理学」の系譜は従来ほとんど研究されてこなかったが、本研究を通してズルツァー、モーリッツといった一般には重視されることのない思想家の内にバウムガルテン学派の感性論の豊かな展開があることを明らかにした。 また、今年度の研究成果は日本語による論文五篇、英語による論文一編、ドイツ語による論文四篇、計一〇編の論文において公にした。 さらに、「感性」の問題と密接に結びつく「ミメーシス」に関して、日本フランス語フランス文学会2012年度春季大会ワークショップにおいて「ミメーシスとパラデイグマ――美学的一考察――」と題する報告を行い、仏文研究者との交流にも努めた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究は大きく二つからなる。 第一に、7月に開催される国際美学会議(クラクフ、ポーランド)において、リチャード・シュスターマンが組織するシンポジウム「ソーマエステティクス」に招待され、そこでシュスターマンが提唱する新たな学問「ソーマエステティクス」の歴史的背景について論じる予定であるが、これは「感性の理論史」という本研究の一つの軸をなすものであり、次年度の前半はこの研究に集中する。 第二は、カントの構想力論の研究である。第一年次においてバウムガルテン学派の感性論の歴史について明らかにしたので、次年度はバウムガルテンの美学=感性論の構想を根底から批判したカントの検討を行う。カントの感性論というと通常は『純粋理性批判』の「感性論」が議論の対象となるが、本研究が着目するのは、『判断力批判』において「直観の能力」と規定される構想力の働きである。すなわち、カントの構想力論を「感性論」の一つの展開として読むことによって、従来のカントの構想力に関する解釈(それは未だなおハイデガーの影響を受けている)とは異なる解釈を展開しうるはずである。
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次年度の研究費の使用計画 |
前項「今後の研究の推進方策」に記したように、次年度の研究の重点の一つは、7月に開催される国際美学会議(クラクフ、ポーランド)でのシンポジウムでの報告にある。そこで、次年度の研究費は会議の出張旅費に用いる。なお、会議終了後ドイツ・ベルリンにおいて9月初めまで、研究者との交流、及び資料調査に従事する予定である。
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