美学は20世紀末より、美学の語源がギリシア語で「感性」を意味する「アイステーシス」のうちにあることに基づいて、〈感性論的転回〉を遂げつつあり、またそれに伴い、美学を「感性的認識の学」と規定した美学の始祖バウムガルテンへの関心を呼び起こしつつある。しかし美学のこの〈感性論的転回〉は必ずしも美学史の豊かな再編成とは結びついておらず、そのため今までの美学理論の蓄積を十分活用した理論とはなっていない。本研究は、美学の〈感性論的転回〉に対応しうる、あるいは美学の〈感性論的転回〉をさらに促進しうる美学史の構築を求めるものであり、それは美学史研究が同時に今日の美学の根本問題を構成しうることを示す試みでもある。 最終年度は次の五つの主題を扱った。第一は、近代美学の成立を支えたライプニッツの哲学から生まれた「無意識」の概念の美学的解明(その成果は『モルフォロギア』第37号に掲載)、第二は、カントの『判断力批判』における aesthetisch の概念のもつ意味の検討(その成果は17年度の公刊の『カント研究』に公表予定)、第三はカント批判をとおして独自の立場を切り開いたヘルダーの晩年の著作『カリゴネー』の検討(その成果は17年度中に公表予定)、第四は近代日本の感性論的思考を1901年の「美的生活論争」のうちに明らかにすること(その成果は17年度刊行予定の『日本哲学』掲載予定)、ならびに第五は(17年度以後の科研費による研究を多少先取りするものとして)共通感覚論についての再検討(国際美学連盟の会議、および国際一八世紀学会で成果を発表)である。
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