研究課題/領域番号 |
24520105
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
今井 祐子 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 准教授 (00377467)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 美術史 / 陶磁史 / フランス文化史 / ジャポニスム / 日仏文化交流史 / 国際情報交換(フランス) |
研究実績の概要 |
1、平成28年度には以下の新知見が得られたので、平成29年度に行う講演会及び論文、翻訳書の発行においてこれを発表する。 (1)中国磁器に想を得てセーヴル製作所で考案された泥漿を用いる装飾技法「パット・シュール・パット」は、同製作所で1849年から試作された。セーヴル陶磁美術館所蔵の昆虫文砂糖壺(1849年作、MNC.6871)とリーの壺(1850年作、MNC.4178)が、同技法を用いて製作された初期作品である。だがこれらは、現代人がパット・シュール・パットと聞いて思い浮かべる作風とは必ずしも似ていない。我々が知っているパット・シュール・パットの作風は、濃色地の上に白泥漿だけで文様を描いた作品であるのに対して、上記の2作品に見られる装飾文様では色泥漿と白泥漿の両方が用いられているからである。さらにパット・シュール・パットを用いた初期の試作品では、泥漿のみならず釉下に施す青顔料でも文様が描かれており、伝統的な装飾技法が一緒に用いられていた。さらに着色地に関しては、当初は青磁色(薄青緑)が好んで用いられており、濃色は後に使用されるようになった。よってパット=シュル=パットは、徐々に改良を重ねて発展していった技法であることがわかった。 (2)日本では「パット・シュール・パット」のことを「パティオパット」と呼ぶ者がいるが、これは誤用が慣用になった用語の一例である。「パツィオパット」という言葉は、セーヴルでは全く通用せず、英国人の不正確な発音やフランス人の不明瞭な発音を真似たものである。欧文文字が存在せず、カタカナ表記だけが独り歩きしている奇妙なこの用語については、今後、訂正していかねばならない。 (3)セーヴル製作所に約40年間勤務した化学者、アントワーヌ・ダルビス氏が5年以上をかけて執筆した技法書の日本語訳刊行にむけて、翻訳作業と掲載写真の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度中には、本研究の成果の一部を盛り込んだ学術書を刊行することができた。また、IS関連のテロに起因する用務先(フランス)の治安悪化のため平成27年度に中止した海外調査を、平成28年度には一度だけではあるが実施することができた。これにより、近年フランスで行われた研究の成果や、目下フランスで行われている研究に関する情報を得ることができ、ひいてはこれらの新知見を本研究に結びつけてより精緻な研究成果を報告できるという明るい見通しができた。
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今後の研究の推進方策 |
1、以下の点について得られた知見を講演会、論文で発表し、また重要著作の翻訳書を刊行する。 (1)パット=シュール=パット技法の発展の経緯について、講演会や論文で発表する。 (2)セーヴルの技法書の翻訳書を刊行する。 2、海外で作品調査を実施する。 ・1850~1880年代にパット・シュール・パットを用いて装飾された作品に使用された着色地に関する作品を調査する(胎土全体を着色 したものか、器の表面に色泥漿を薄く塗布した着色地なのかを確認する)。 ・1890年代以降に高火度釉(特に結晶釉)を用いて製作された作品を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外調査の一部を延期したために、作品調査がまだ完了していない。本研究では文献調査と作品調査を総合した研究成果を得ることを目的としているため、事業期間を一年延長して作品調査を実施し、当初の目的を遂げたいと考えている。補助事業期間の延長が承認されたため、残額を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
残額を平成29年度に行う海外調査のための渡航費・滞在費にあてる。
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