研究課題/領域番号 |
24520106
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
秋庭 史典 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80252401)
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研究分担者 |
鈴木 泰博 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (50292983)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 触覚 / 美学 / 実験美学 / 触譜 / 自然計算 / アルゴリズム / 記譜法 / 皮膚 |
研究概要 |
24年度の計画は、大きく、1. マッサージ文法の抽出、2.触覚刺激による実験計測系の構築、3. 触覚に関する過去の美学研究の再整理、4. 触譜の改善に向けた記譜法の再検討であった。それぞれについて研究を行い、次のような成果を公表した。まず、1. マッサージ文法については、台北で開催された第22回国際実験美学会議にて、Computational Aesthetics of Tactile Sense and Its Significance for Philosophical Aestheticsと題する発表(Akiba, F. & Suzuki, Y.)を行い、圧力・速度・面積の三要素を基にした文法記述可能性とその美学的含意について発表した。2. 触覚刺激による実験計測系の構築については、情報科学技術フォーラムにおいて、「マッサージの効果の評価法構築に向けて」(鈴木智広、鈴木泰博、秋庭史典の共著)と題した発表を行い、触覚刺激による顔の部位の変化の評価法の構築に向けた提案を行った。3.触覚に関する過去の美学研究の再整理については、主として秋庭がHerder、G.Deleuzeなど、直接触覚的なものを論じた美学者のみならず、身体意味論に依拠して美学を考えるM.Johnsonなどを含め、研究発表を行った(「触譜(tactile score)から考える触覚とその伝達可能性について」、「触覚の美学と芸術作品における記譜」)。4.記譜法の再検討については、触譜と同じく音楽的なものの可視化を念頭に作品制作を行ったパウル・クレーの理論がもつ可能性を検討し発表した(F. Akiba, Another musical notation for possible expansion of tactile score, 第7回自然計算国際ワークショップ)。以上が研究の概要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」と考える最大の理由は、「研究実績の概要」でも記したとおり、24年度の実施計画に挙げた、1. マッサージ文法の抽出、2.触覚刺激による実験計測系の構築、3. 触覚に関する過去の美学研究の再整理、4. 触譜の改善に向けた記譜法の再検討について、それぞれ研究を進め、査読つきの国際会議などでの発表を積み重ねることができているためである。 また、2. 触覚刺激による実験計測系の構築については、当初サーモグラフィを重視していたが、研究の進展に伴い、それ以外の多様な計測系の可能性(生理学的指標など)が考えられるようになっている。また、3.,4.についても当初考えられていたヘルダーやドゥルーズといった、直接触覚的なものに関わる論考を発表している研究者だけでなく、それらとはまったく別の文脈から、画家パウル・クレーが残したPaedagogischer Nachlass (スイス、ベルンにあるパウル・クレー・センターに保管)に見られる理論的考察が、触譜との関わりできわめて重要であることが明らかになっている。 以上から、おおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、次の2つの研究をその内容としている。すなわち、1. 触覚刺激のさまざまな評価に向けた研究、2. 触覚・視覚・聴覚という感覚相互のあいだの再編成の可能性を考察するための準備となる研究、である。1. について、具体的には、サーモグラフィ、唾液アミラーゼなど、24年度にその構築が模索された、いくつかの計測系についてさらなる研究を行う。2.について、具体的には、感覚相互の再編成の可能性を問うために、あらためて触覚の美学を研究するとともに、触覚刺激のノーテーションである触譜を音に変換する、また逆に、音を触譜に変換する、等の実験を行う。特に、2.について、そのうち触譜の音化については、昨年度からすでに着手しており、2013年3月19日、東京ミッドタウンカンファレンスルーム6で開催した「触譜を用いた触覚の実験美学的研究」セミナーにて、最初の試みを発表している。今年度は、それをさらに進展させるため、前年度からすでに研究にご協力いただいているピアニスト荒井茉里奈(武蔵野音楽大学、名古屋大学)を、あらためて研究協力者に迎える。クロイツァー賞を受賞しているピアニストの協力を得ることで、音楽的にも間違いのない方法で研究を進展させることを目指している。さらに、打鍵を通じた音と色の相互変換を目指した「色彩クラヴィーア」についての美学的研究を行っている専門家を招き、知識提供をいただく。 さらに今年度は、研究の中間成果発表の場として、学会にて国際ワークショップを開催する予定である。この国際ワークショップには、触覚あるいは身体感覚についての著名な海外研究者も参加する予定である。この国際ワークショップにより、さらなる研究の進展を促進することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、次のような研究費の使用計画を立てている。まず、「設備備品費」では、引き続き触覚の美学について考察するため、触覚ならびに触覚美学の関連文献購入に使用する予定である。また、触覚刺激の計測に際して必要な、小額の設備備品を購入する予定である。「人件費・謝金」としては、触覚刺激計測実験のために、被験者ならびに実験補助者に対する謝金を支払う予定である(年5回、各回2名を予定)。また、触覚の美学について、著名な研究者から専門的知識の提供(講演など)をいただく予定であり、そのための謝金ならびに旅費を支払う(「国内旅費」、「謝金」、講師2名、各1回を予定している)。さらに、国際会議での発表を予定しているため、発表原稿の「外国語翻訳・校閲」に謝金を、また発表のための渡航費に旅費を使用する予定である(「海外旅費」)。さらに、触覚刺激の計測や、触譜の音化の実験に必要な各種「消耗品」についても使用する。
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