研究課題/領域番号 |
24520107
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
平芳 幸浩 京都工芸繊維大学, 美術工芸資料館, 准教授 (50332193)
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キーワード | 現代美術 / 西洋文化受容 / マルセル・デュシャン / 東野芳明 / 瀧口修造 / ネオ・ダダ |
研究概要 |
マルセル・デュシャンの日本における受容の変遷とその意義についての研究二年度目として、1950年代から1960年代にかけての受容の様態について調査研究を行った。 当時の美術系雑誌の中心を担っていて『みづゑ』ならびに『美術手帖』『芸術新潮』の記事については網羅的な調査を行い、デュシャン関連の情報の抽出整理を行うとおもに、どのような論点で扱われているか分析を行った。また、雑誌記事以外の文献については、できる限り広範に資料収集を行うとともに、特に戦前期からデュシャン受容の中核をになってきた瀧口修造の戦後の活動、および瀧口の愛弟子とも言うべき存在で戦後日本の前衛芸術を牽引するとともにデュシャンの新たな喧伝者となった東野芳明の執筆論文および著作物については、デュシャン自身への言及のみならず、関係動向についての関連論考全ての調査分析を行った。 さらに、当時の前衛芸術の世界で活躍し、デュシャンの影響を強く受けている作家のうち、篠原有司男氏と岡崎和郎氏に、それぞれニューヨークと東京で聞き取り調査を行った。文献資料に残されていない当時のデュシャン受容の様態がこれら聞き取り調査によって明らかになった。 上記の調査研究を通して、戦後日本におけるデュシャン受容の様態が明らかになった。戦後アメリカにおけるネオ・ダダ動向の情報が同時代的に日本に流入するに合わせて、デュシャン受容がシュルレアリスムから離れ、同時代的な理解へと変化したこと、現代美術の父と呼ばれるようになったデュシャンへの愛憎入り乱れた感情を持った作家が多かったことなどが明らかになった。 当該年度の上記研究についての成果は論文としてまとめている最中で、今年度前半期に学会にて発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献調査ならびに聞き取り調査等、狩猟収集や調査は概ね順調にすすんだものの、それら膨大な資料の整理、およびその整理に基づく分析作業に予想以上の時間を要し、まとめの作業に手間取ることとなり、全体スケジュールに若干の影響を及ぼした。 結果的に年度内に予定していた調査全体は完了したが、最終的な研究成果を論文にまとめて発表する部分のみが平成26年度にずれ込むこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
まず平成25年度の研究についての成果論文はできる限り早急にまとめて学会発表を行う。それと並行して平成26年度は当初計画通りに、1980年代におけるマルセル・デュシャン受容についての調査研究を行う。1981年に高輪美術館とセゾン美術館で開催された「マルセル・デュシャン展」は日本で初めてデュシャンの実作品をまとめて展覧することとなった重要な展覧会であり、その展覧会が、当時新進作家として活動を始めていた若い世代の作家たち、またアーティストを目指していた若者たちに与えた影響について調査を行う。また、東京大学がデュシャンの『大ガラス』のレプリカ製作を行うなど、知識人によるデュシャン受容が進んだのもこの時期の特徴である。それら知識人とデュシャン受容の関係についても調査を行う。 調査方法は、これまでと同様、当時の新聞雑誌における記事調査、実作品における反映調査、および当時の日本人作家と『大ガラス』レプリカ制作者への聞き取り調査による。 最終的には、三年間にわたる全調査研究の成果として論文を集成した冊子を発行する予定である。
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