マルセル・デュシャンの日本における受容の変遷とその意義についての研究最終年度として、1970年代から1980年代にかけての受容様態について調査研究を行った。 当時の美術系雑誌の中心を担っていた『美術手帖』『芸術新潮』の記事については網羅的な調査を行い、デュシャン関連の情報の抽出整理を行うとともに、どのような論点で扱われているか、とりわけ1960年代までの論点からどのような移行や変化が見られるかについて分析を行った。また、1980年に高輪美術館で開催された日本初のマルセル・デュシャンについての情報を整理し、この展覧会が引き起こした関心と読解の方向性について調査分析を行った。 さらに、デュシャンの影響を強く受けている作家のうち、1970年代以降に活躍の場を広げる代表的な作家として、杉本博司氏に聞き取り調査を行った。文献資料に残されていない当時のデュシャン受容の様態の一端がこの聞き取り調査によって明らかになった。 上記の調査研究を通して、1950年代から60年代にかけての「反芸術」的ムードにおけるデュシャン受容から1970年代以降の「概念芸術」的ムードにおけるデュシャン受容への変化の様態が明らかになった。さらに、1969年にデュシャンの遺作が公開されてから、デュシャン作品の読解方法自体が大きく変貌を遂げ、その変化と日本国内のデュシャン受容の変化との関連性についても明らかにした。
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