研究課題/領域番号 |
24520109
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 瑞穂 大阪大学, 総合学術博物館, 招へい准教授 (70613892)
|
キーワード | 具体美術協会 / 吉原治良 / 戦後日本美術 / 前衛 / 海外戦略 / 海外との交流 |
研究概要 |
具体美術協会(略称:具体、1954-1972年)のリーダーであった吉原治良(1905-1972年)が、いかに海外の美術関係者と交流し、具体の活動を海外へと展開したか、その具体的過程と戦略を解明するために、平成25年度は次の点に着目して研究を進めた。 1、大阪大学総合学術博物館寄託の具体関連資料整理・調査(1)国内外の美術関係者と交わされた書簡 (2)具体の活動拠点となったグタイピナコテカ関連資料 2、海外に保管されている具体関連資料の調査 3、元具体会員への聞き取り調査 1-(1)は学生の協力を得て全体をほぼ年代順に整理し終え、データベースの作成に取りかかっている。1-(2)は調査を終了し、成果は『戦後大阪のアヴァンギャルド芸術 焼け跡から万博前夜まで』(大阪大学出版会、2013年)でまとめることができた。2はアメリカの三カ所で実施した。平成25年度に予定していたワシントンD.C.に本部があるスミソニアンのアーカイヴス・オブ・アメリカン・アートについては、ニューヨーク支部でも同内容の資料を閲覧可能と分かり、調査場所をニューヨークに変更した。同アーカイヴでは海外での初の具体美術展(1958年)会場となったマーサ・ジャクソン画廊の資料を調査し、マイクロフィルム化された文書を閲覧した。またニューヨーク近代美術館のアーカイヴでは、平成24年度に引き続き具体関連の資料を調査した。さらに当初は予定していなかったが、アメリカ・ダラスの著名な美術収集家が所蔵する、具体を含む戦後日本美術コレクションを実見する機会を得、同氏が運営する教育研究機関について情報収集を行なうことができた。3は元具体会員1名に聞き取り調査を実施、これまで文字で残された記録が少ない1960年代後半の具体の活動に関する貴重な証言を得られた。そして来年度に実施する元具体会員2名への聞き取り調査日時を確定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪大学総合学術博物館寄託の具体関連資料のうち書簡については、学生らの協力のもと、データベース化の前提になる現物の整理をほぼ終了することができ、次のデータ入力作業に取りかかっている。またグタイピナコテカ関連資料の調査研究成果は、2013年7月に刊行された『戦後大阪のアヴァンギャルド芸術 焼け跡から万博前夜まで』(大阪大学出版会)に反映された。本書では、グタイピナコテカ(1962-1970年)の活動に全体の約三分の一ページが割かれ、本課題の代表研究者がその執筆・編集を担当した。内容は、グタイピナコテカを再考した論文、掲載作品・資料図版の解説、グタイピナコテカ関連年表・主要参考文献リストである。 海外調査に関しては、申請時から予定していたスミソニアンのアーカイヴス・オブ・アメリカン・アートで、マイクロフィルム化されたマーサ・ジャクソン画廊の関連資料すべてを閲覧した。その他ニューヨーク近代美術館アーカイヴでは、昨年度は具体会員の作品が複数含まれていた、同館企画の「日本の新しい絵画と彫刻」展(1965-67年)に関するものが中心であったが、今年度はそれ以外の資料を調査し、同展終了後も担当キュレーターに書簡を送っている元具体会員がいたことを確認した。加えて、当初は予定していなかったがダラスの美術収集家の充実した戦後日本美術の収集品をまとまって実見すると共に、海外の研究者によるフォーラムに参加し、現在のアメリカにおける戦後日本美術の新たな受容と研究の高まりをつぶさに知ることができた。 元具体会員への聞き取り調査は、1960年代後半に具体に加入した堀尾昭子氏を対象に行い、これまで公になっていない会場写真や出版物を調査すると同時に、当事者でしか知り得ない貴重な声を記録に残した。
|
今後の研究の推進方策 |
当該研究期間の最終年となる平成26年度は、具体関連資料の書簡のデータベース化を完了させるべく努力していく。また、海外での資料調査については、スタドラー画廊の関連資料調査が、所蔵者の逝去後状況が変化したことにより調査不可能になったため、代わってアメリカでの調査をさらに継続して実施する。アメリカでは、マーサ・ジャクソン画廊の資料が保管されているニューヨーク州立大学バッファロー校や、これまでの継続的な調査で新たな資料の発見が期待できるニューヨーク近代美術館アーカイヴなど、ニューヨーク周辺での調査を予定している。これらの海外での調査結果を、国内で進めている資料のデータベースに統合し、吉原治良がめざした海外への展開を歴史的に見直す基盤にしたい。そして元具体会員への聞き取り調査については、申請時より当該研究期間内に予定していた作家のうち、残る松谷武判氏、堀尾貞治氏への聞き取りを実施し、その他にも、聞き取りが必要と判断される関係者がいた場合は適宜行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、主に人件費・謝金の費目で当初見込額と執行額が異なることになった。これは、書簡整理作業等で学生らの協力者の人数もしくは実施時間数を増やすことを念頭に置いていたが、結局平成24年度と同程度の人数・時間数で想定していた段階の作業を終えることができ、結果として執行額が増加しなかったことに起因する。 研究計画そのものに変更はなく、平成25年度に未使用となった研究費も含め、当初予定に則って計画を進めていく。なお当該研究の最終年度に当たるため、調査結果のデータ入力等これまでの研究をまとめるために必要な作業を重点的に実施したい。
|