研究課題/領域番号 |
24520116
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
椎原 伸博 実践女子大学, 文学部, 教授 (20276679)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 持続可能性 / アートプロジェクト / アートNPO / まちづくり / 文化的景観 / 創造都市 / 産業遺産 / 負の遺産 |
研究概要 |
本研究は、日常生活における文化芸術の分野での「持続可能性」を意識させる実践に注目し、それらのフィールドワークを通じて、新たな価値創造の可能性について考察することを目的とする。研究初年度では「国内旅費」を用いて、全国のアートNPOやアートプロジェクト、まちづくりとアートの関係性等を調査した。具体的には、新潟県の越後妻有アートトリエンナーレ、大分県の別府現代芸術フェスティバル、国東半島アートプロジェクト、富山県のアートNPOヒミング、福岡県久留米市のカメラータ城島などである。それらでは、地域において文化芸術の実践を持続的に発展させることが、住民が地域の創造的価値を認識し、それが豊かな生活の基盤となりうることを確認した。一方、景観の問題に注目し、新潟県中越地震の復興と文化的景観の問題から旧山古志村(現長岡市)、歴史的景観の保全という問題から奈良県奈良市を調査した。特に前者は、負の遺産としての景観を住民がどのように活用していくかといった問題を意識させ、それは東日本大震災の復興の問題につながっていることを確認した。「外国旅費」に基づく研究計画では、ドイツのエムシャーパーク事業を予定していたが、スケジュールの問題で調査することは出来なかった。しかし、韓国の光州市とソウル市の文化的実践の調査を行い、創造的価値を有する文化芸術の持続的な活用こそが、様々な都市問題を解決するのに有効であることが確認できた。本研究は、フィールドワークを中心とする研究であり、今回の調査により、同じ関心をもち、それを実際に活動している人たちとの意見交換が出来たことは一定の成果といえる。また、意見交換の結果を「日常性の美学」という側面から理論化していく作業は、特に英米の「環境美学」に関する論文や著作に注目しつつ遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度では、精力的に国内のアートプロジェクト、アートNPOの調査を行い、一定の成果をあげることが出来たが、当初予定していたドイツの「エムシャーパーク事業」の調査を行うことが出来なかった。この調査は、産業遺産やエコロジーの側面から、都市再生、文化的景観の創出についての研究を行うものであり、その側面からの研究は遅延している状況にある。また「謝金」を用いて、台東区谷中地区などのより具体的なフィールドワークを行うことが出来なかったことも、研究の遅延をもたらしている。しかし、大分県の調査では、事業者とアーティスト、地域住民への聞き取り等で十分な成果を上げることが出来ており、全体としては「やや遅れている」状況にあると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、研究初年度同様「国内旅費」により、アートプロジェクト、アートNPO、まちづくりとアートの関係性の調査を行う。また、東日本大震災以降の復興事業における、文化芸術事業の検証という側面から、現地調査を行う予定である。「外国旅費」では、昨年調査出来なかったドイツの「エムシャーパーク事業」の調査を行い、遅延している産業遺産、エコロジーの側面からの文化芸術における持続可能性の諸問題について調査する。今までの研究成果は、本年7月、ポーランドのクラクフで開催される、第15回国際美学会議において発表し、外国の研究者との意見交換を行うことにする。また、本年12月に九州大学で開催される日本アートマネジメント学会の全国大会において、九州地方での調査結果の成果を発表し、フィールドワークの妥当性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究は、基本的に研究計画を踏襲する。研究初年度は「持続可能性」関連の基礎文献は、インターネット上の文献収集に終始したが、次年度はより広く文献収集に努める。また「国内旅費」により、全国のアートプロジェクト、アートNPO、まちづくりとアートの関係性の調査を行う。具体的には、先ず東日本大震災の復興事業の現状を「まちづくり」の側面から検証し、その際文化芸術がどのように機能したかを検証する。その他では、瀬戸内海の島々で開催される「瀬戸内国際芸術祭」を中心に調査する。また、「海外旅費」による調査は、当初の計画のイタリアのジベリーナの調査は、次年度に行うこととし、昨年調査出来なかったドイツの「エムシャーパーク事業」の調査を行う。研究初年度では、特に「謝金」を用いる研究ができず、136473円も研究費を繰り越してしまった。そこで、本年度は、積極的に「謝金」を活用し、研究の幅をもたせるようにする。具体的には、台東区谷中地区のアートを軸にした、まちづくりの現場に注目し、NPO法人たいとう歴史都市研究会に研究協力を仰ぐことにする。
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